人誅編3・心づき
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身籠ってから昼間も長く眠るようになった夢主は、夜の眠りが不安定だった。
物音で容易に目を覚ます。
夜は警察署で過ごすつもりだった斎藤が思い直して家に戻ると、寝間に入るなり夢主が反応を見せた。真夜中だぞと、斎藤の眉根が寄る。
盛り上がった布団がもぞもぞと動き、寝ているのか起きているのか分からない顔が覗いた。
「ん……今夜は戻らないのかと……思ってました……おかえりなさい……一さん」
「そのつもりだったが、気が変わった。寝ていて構わんぞ」
「はぃ……」
斎藤はお前と別れてから抜刀斎について考えていたとは言えなかった。
任務に関しても、気を張り詰め過ぎては考えが纏まらない。
一時気を抜いて柔軟な思考力を取り戻そうと帰宅したのだ。
制服姿で布団の脇に腰を下ろした斎藤は、そのまま動かなくなった。
暗い寝間で黙り込んで一点を見つめている。
目を閉じた夢主だが、そこにいるのにいつまでも動かない夫を不思議に思い、もう一度目を開いた。
「一さん……」
小さな声は届かなかったのか、斎藤は僅かな反応も見せない。
夢主は布団の中で首を傾げた。
「どうしたんですか、一さん……着替えないんですか」
「ん、あぁ、すぐに出るつもりだ」
そうですか……。
声にならない声で答える夢主だが、そのまま座り込む斎藤の様子を訝しみ、重たい体を起こした。
「どうした、起きるのか」
「どうしたって、一さんが……何かあったんですか、ぼうっとするなんて珍しいですね、どうして……戻られたんですか……」
「妻の顔を見に戻ってはいかんか」
フフッとどこか悪戯な笑みと少し恥ずかしい言葉。
ようやく見えたいつもの反応に、夢主の頬が赤らんだ。
「いぇ……嬉しいです。ただ一さんが……ぼぉっとするなんて珍しくて心配で……」
「呆けてなどおらん。ただ少し考えていただけだ」
「そう……ですね、大変な状況ですよね……」
意識がどこか遠くにある夫、これほど考え込むなど珍しい。
夢主は斎藤の顔を覗くように身を寄せた。
「何かお困りですか、その、手詰まりというか……」
「いや、昼間話した通り。時間が必要だが捜査は進んでいる」
「それなら良かった……」
でも、どこか変です……。
仕事の行き詰まりでないのなら、宿敵を案じてでもいるのだろうか。
夢主はすぐそこにある、白手袋のままの斎藤の手を見つめた。力みも無く緩みも無く、布団の傍に置かれている。
「昼間……落人群に行くつもりだったんじゃありませんか……」
「落人群に、俺がか」
夢主は小さく頷いた。
聞いてはならない気がするが、言葉が止まらない。
斎藤の中で緋村抜刀斎の存在が小さくない事を夢主はよく理解している。
「緋村さんがいるから落人群に……一さんが決着を望む相手だから、本当は……」
「アレも、そのうち戻って来るだろう」
冷たく他人事に聞こえるが、戻るに決まっているとも聞こえる言い草。
他人がどれだけ案じても結局は本人次第、周りが幾ら騒いでも意味が無いと割り切り、誰よりも知る相手だからこそ黙って待っている。
「一さんらしいですね。一さんらしくて私……心配です」
「何」
「いろいろ思うんじゃないかなって、一さんだって感情があるから……」
「フン、くだらん」
斎藤は一瞬目を伏せたが、すぐに淋しそうに寄り添う夢主に目を移した。
己に甘える夢主を見ていると、馬鹿々々しくもお節介な考えに苛まれる。
抜刀斎が何処でくたばろうと勝手だが、幸か不幸か奴を待ち侘びる者達がいる。
あの阿呆は見失っている。いつ気付く、体まで壊れてしまう前に奴はもう一度、地を踏みしめ立ち上がれるのか。待つ者がいるならば戻るのが男だろう。
「本当に阿呆だ」
「一さん……」
「お前じゃない」
「わかります……」
夢主はおもむろに斎藤に抱き付いた。
物音で容易に目を覚ます。
夜は警察署で過ごすつもりだった斎藤が思い直して家に戻ると、寝間に入るなり夢主が反応を見せた。真夜中だぞと、斎藤の眉根が寄る。
盛り上がった布団がもぞもぞと動き、寝ているのか起きているのか分からない顔が覗いた。
「ん……今夜は戻らないのかと……思ってました……おかえりなさい……一さん」
「そのつもりだったが、気が変わった。寝ていて構わんぞ」
「はぃ……」
斎藤はお前と別れてから抜刀斎について考えていたとは言えなかった。
任務に関しても、気を張り詰め過ぎては考えが纏まらない。
一時気を抜いて柔軟な思考力を取り戻そうと帰宅したのだ。
制服姿で布団の脇に腰を下ろした斎藤は、そのまま動かなくなった。
暗い寝間で黙り込んで一点を見つめている。
目を閉じた夢主だが、そこにいるのにいつまでも動かない夫を不思議に思い、もう一度目を開いた。
「一さん……」
小さな声は届かなかったのか、斎藤は僅かな反応も見せない。
夢主は布団の中で首を傾げた。
「どうしたんですか、一さん……着替えないんですか」
「ん、あぁ、すぐに出るつもりだ」
そうですか……。
声にならない声で答える夢主だが、そのまま座り込む斎藤の様子を訝しみ、重たい体を起こした。
「どうした、起きるのか」
「どうしたって、一さんが……何かあったんですか、ぼうっとするなんて珍しいですね、どうして……戻られたんですか……」
「妻の顔を見に戻ってはいかんか」
フフッとどこか悪戯な笑みと少し恥ずかしい言葉。
ようやく見えたいつもの反応に、夢主の頬が赤らんだ。
「いぇ……嬉しいです。ただ一さんが……ぼぉっとするなんて珍しくて心配で……」
「呆けてなどおらん。ただ少し考えていただけだ」
「そう……ですね、大変な状況ですよね……」
意識がどこか遠くにある夫、これほど考え込むなど珍しい。
夢主は斎藤の顔を覗くように身を寄せた。
「何かお困りですか、その、手詰まりというか……」
「いや、昼間話した通り。時間が必要だが捜査は進んでいる」
「それなら良かった……」
でも、どこか変です……。
仕事の行き詰まりでないのなら、宿敵を案じてでもいるのだろうか。
夢主はすぐそこにある、白手袋のままの斎藤の手を見つめた。力みも無く緩みも無く、布団の傍に置かれている。
「昼間……落人群に行くつもりだったんじゃありませんか……」
「落人群に、俺がか」
夢主は小さく頷いた。
聞いてはならない気がするが、言葉が止まらない。
斎藤の中で緋村抜刀斎の存在が小さくない事を夢主はよく理解している。
「緋村さんがいるから落人群に……一さんが決着を望む相手だから、本当は……」
「アレも、そのうち戻って来るだろう」
冷たく他人事に聞こえるが、戻るに決まっているとも聞こえる言い草。
他人がどれだけ案じても結局は本人次第、周りが幾ら騒いでも意味が無いと割り切り、誰よりも知る相手だからこそ黙って待っている。
「一さんらしいですね。一さんらしくて私……心配です」
「何」
「いろいろ思うんじゃないかなって、一さんだって感情があるから……」
「フン、くだらん」
斎藤は一瞬目を伏せたが、すぐに淋しそうに寄り添う夢主に目を移した。
己に甘える夢主を見ていると、馬鹿々々しくもお節介な考えに苛まれる。
抜刀斎が何処でくたばろうと勝手だが、幸か不幸か奴を待ち侘びる者達がいる。
あの阿呆は見失っている。いつ気付く、体まで壊れてしまう前に奴はもう一度、地を踏みしめ立ち上がれるのか。待つ者がいるならば戻るのが男だろう。
「本当に阿呆だ」
「一さん……」
「お前じゃない」
「わかります……」
夢主はおもむろに斎藤に抱き付いた。