人誅編2・心境
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大切な人を失ったと思い、世を捨てたいと願う剣心。
何としても人誅を果たし姉の笑顔を守ろうとする縁。
二人の間にあるのは当人達が解決しなければならない問題。
身や心がどれだけ傷んでも越えなければならない過去。剣心にとっても縁にとってもそれは同じだ。
夢主は広く静かな沖田の家で、一人座り込んでいた。沖田も栄次も家を空けている。
仰ぎ見るのは青く広がる空。人々の苦悩を知らぬ清々しさがある。
「綺麗な空……」
夢主は朝からずっと、誰もいない屋敷に控えていた。
「勉さん、一さんは……父上は今日も頑張っています。父上は働き者なんですよ、みんなを……勉さんのことも、守ってくれているんですよ……」
お腹を擦りながら、自らを慰めるように語り掛けた。
ころころと体の中で何かが転がるように、お腹の中で反応がある。勉が語り掛けに応じてくれた気がして、夢主は顔を綻ばせた。
薫にも剣心にも、誰にも何も言わず、今を迎えてしまった。
神谷道場が縁達の襲撃を受ける最中に現れた斎藤一。
これで斎藤の生存が皆に伝わった。
志々雄の一件以降も真実を伝えず、すっかり音沙汰の無い自分は皆から見れば薄情者。
それでも構わないと思っていた。
縁は我に返り、弥彦は格段に成長を見せ、剣心と薫は絆を深める。辛くとも避けられない時の過流に皆が身を置いている。
夢主は今度も時の流れに身を任せ、皆を信じて見守るしかないと覚悟を決めていた。
しかし、そんな覚悟を揺るがす声が聞こえ、一人きりの静寂な時を終わらせた。
「夢主ちゃん、いるんやろか」
優しい声と共に顔を覗かせたのは妙だ。
久しぶりに聞く温かな声に夢主の胸に込み上げるものがある。
「妙さん」
「夢主ちゃん……」
赤べこを失っても立ち止まらなかった妙、薫の死に直面してもそれは変わらなかった。
ただ、心労は重なっていた。泣き腫らした目で痛々しく微笑んでいる。
悲しみに身を苛まれていても、妙は夢主を案じて訪ねて来たのだ。怒りも憎しみも無く、ただ夢主の身を案じていた。
「ちゃんと食べてる、元気してはるん、大丈夫、薫ちゃんのこと……聞いてるやろ、こんな事になるなんて……お父はん所にいる井上はんに聞いても夢主ちゃんは大丈夫としか言わへんから覗きに来たんよ、ほんまに大丈夫か気になって」
矢継ぎ早に問いかける妙だが、柔らかい声が夢主の中の強張りを解していく。
薫の死を受け入れて乗り越えようとする妙の姿は、悲しくも逞しかった。
「なぁ、お腹の子の為にも無理せんとゆっくり休んでいいけど、一人で閉じこもってるのも良くないし、皆の顔も見に来てな」
「ありがとうございます、みんな……悲しいですよね……妙さんもお辛いのに、本当に……ありがとうございます」
薫が連れ戻されるまで、妙にその生存を知る術は無い。
親しい友人を失っても店を切り盛りし、こうして周囲の者にまで気を配る心遣い。
夢主は妙の強さと優しさを前に、感慨深く頭を下げた。
「そんな頭下げんといてぇ、私だけやないもの、皆辛いけど頑張ってはるし。でも燕ちゃんは今にも泣き出しそうで可哀想やわ、まだ子供やのに頑張り過ぎて心配よ。素直に泣いてええのに……」
「燕ちゃん……我慢しているんですね……」
「優しい子やからなぁ……そや、弥彦君は何か頑張ってるみたいやね、京都からお客はんが来てるみたいやし」
「京都から……」
「えぇ、話に聞いただけやけど、おかげで弥彦君は元気を取り戻したみたいね」
ふふっと漏れる妙の声から、弥彦が気をしっかり保っていることが窺える。
弥彦を元気付けた京都からの客人、蒼紫と操だ。
縁の日記を持ってやって来たのだ。
力が抜けていた体に活力が戻るのを感じ、夢主は顔を上げた。
「夢主ちゃん?」
「私も、少し外に出ます」
「そう、それがえぇわ、一緒に行くわよ」
「妙さんはこれからお店があるでしょう、一人で大丈夫です!」
「急にどうしたん、途中まで一緒するわよ」
操と蒼紫の到着は皆に光を与える。
薫の無事が確信され、皆は行動に移る。
夢主の心にも光が差し始めた。
「へへっ、ちょっと考え込み過ぎですね、私も……少し体を動かします。弥彦君たちを見習って」
「そうね、それがえぇわ」
歩き始めて動き出す景色を無意識にやり過ごし、夢主は皆の心に起こる変化に思いを巡らせた。
弥彦と操は目的の為に走り出した。
左之助は、剣心に見切りをつけて東京を出て行ってしまう。
けれども久しぶりに踏み入れた故郷の地で大切なものを思い出し、再び東京へ戻ってくる。
皆が一歩ずつ踏み出す時。夢主は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
何としても人誅を果たし姉の笑顔を守ろうとする縁。
二人の間にあるのは当人達が解決しなければならない問題。
身や心がどれだけ傷んでも越えなければならない過去。剣心にとっても縁にとってもそれは同じだ。
夢主は広く静かな沖田の家で、一人座り込んでいた。沖田も栄次も家を空けている。
仰ぎ見るのは青く広がる空。人々の苦悩を知らぬ清々しさがある。
「綺麗な空……」
夢主は朝からずっと、誰もいない屋敷に控えていた。
「勉さん、一さんは……父上は今日も頑張っています。父上は働き者なんですよ、みんなを……勉さんのことも、守ってくれているんですよ……」
お腹を擦りながら、自らを慰めるように語り掛けた。
ころころと体の中で何かが転がるように、お腹の中で反応がある。勉が語り掛けに応じてくれた気がして、夢主は顔を綻ばせた。
薫にも剣心にも、誰にも何も言わず、今を迎えてしまった。
神谷道場が縁達の襲撃を受ける最中に現れた斎藤一。
これで斎藤の生存が皆に伝わった。
志々雄の一件以降も真実を伝えず、すっかり音沙汰の無い自分は皆から見れば薄情者。
それでも構わないと思っていた。
縁は我に返り、弥彦は格段に成長を見せ、剣心と薫は絆を深める。辛くとも避けられない時の過流に皆が身を置いている。
夢主は今度も時の流れに身を任せ、皆を信じて見守るしかないと覚悟を決めていた。
しかし、そんな覚悟を揺るがす声が聞こえ、一人きりの静寂な時を終わらせた。
「夢主ちゃん、いるんやろか」
優しい声と共に顔を覗かせたのは妙だ。
久しぶりに聞く温かな声に夢主の胸に込み上げるものがある。
「妙さん」
「夢主ちゃん……」
赤べこを失っても立ち止まらなかった妙、薫の死に直面してもそれは変わらなかった。
ただ、心労は重なっていた。泣き腫らした目で痛々しく微笑んでいる。
悲しみに身を苛まれていても、妙は夢主を案じて訪ねて来たのだ。怒りも憎しみも無く、ただ夢主の身を案じていた。
「ちゃんと食べてる、元気してはるん、大丈夫、薫ちゃんのこと……聞いてるやろ、こんな事になるなんて……お父はん所にいる井上はんに聞いても夢主ちゃんは大丈夫としか言わへんから覗きに来たんよ、ほんまに大丈夫か気になって」
矢継ぎ早に問いかける妙だが、柔らかい声が夢主の中の強張りを解していく。
薫の死を受け入れて乗り越えようとする妙の姿は、悲しくも逞しかった。
「なぁ、お腹の子の為にも無理せんとゆっくり休んでいいけど、一人で閉じこもってるのも良くないし、皆の顔も見に来てな」
「ありがとうございます、みんな……悲しいですよね……妙さんもお辛いのに、本当に……ありがとうございます」
薫が連れ戻されるまで、妙にその生存を知る術は無い。
親しい友人を失っても店を切り盛りし、こうして周囲の者にまで気を配る心遣い。
夢主は妙の強さと優しさを前に、感慨深く頭を下げた。
「そんな頭下げんといてぇ、私だけやないもの、皆辛いけど頑張ってはるし。でも燕ちゃんは今にも泣き出しそうで可哀想やわ、まだ子供やのに頑張り過ぎて心配よ。素直に泣いてええのに……」
「燕ちゃん……我慢しているんですね……」
「優しい子やからなぁ……そや、弥彦君は何か頑張ってるみたいやね、京都からお客はんが来てるみたいやし」
「京都から……」
「えぇ、話に聞いただけやけど、おかげで弥彦君は元気を取り戻したみたいね」
ふふっと漏れる妙の声から、弥彦が気をしっかり保っていることが窺える。
弥彦を元気付けた京都からの客人、蒼紫と操だ。
縁の日記を持ってやって来たのだ。
力が抜けていた体に活力が戻るのを感じ、夢主は顔を上げた。
「夢主ちゃん?」
「私も、少し外に出ます」
「そう、それがえぇわ、一緒に行くわよ」
「妙さんはこれからお店があるでしょう、一人で大丈夫です!」
「急にどうしたん、途中まで一緒するわよ」
操と蒼紫の到着は皆に光を与える。
薫の無事が確信され、皆は行動に移る。
夢主の心にも光が差し始めた。
「へへっ、ちょっと考え込み過ぎですね、私も……少し体を動かします。弥彦君たちを見習って」
「そうね、それがえぇわ」
歩き始めて動き出す景色を無意識にやり過ごし、夢主は皆の心に起こる変化に思いを巡らせた。
弥彦と操は目的の為に走り出した。
左之助は、剣心に見切りをつけて東京を出て行ってしまう。
けれども久しぶりに踏み入れた故郷の地で大切なものを思い出し、再び東京へ戻ってくる。
皆が一歩ずつ踏み出す時。夢主は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。