エピローグ完
夢主名前設定
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夢主が沖田の屋敷前を掃除していると、長い塀の向こうに見慣れた人影が現れた。
箒を動かす夢主を見つけた人影は一旦立ち止まるが、意を決したように早足で歩き出す。
紅い着物に白い袴、思いきり気まずそうな顔で剣心がやって来た。
「っ、夢主殿」
志々雄のアジトで別れたきり、顔を見ていなかった。気になって屋敷を訪ねたのだ。
「……夢主殿」
「緋村さん……」
「夢主殿、斎藤は……斎藤は」
剣心は夢主の顔色を窺った。
よもや生きて帰り、合流しているのではないかと期待したが、夢主の顔からは本音が読み取れない。
剣心は俯いて首を振った。
「すまない」
「顔を上げてください、緋村さんが謝ることなんて何一つ……一さんに力をお貸しくださって感謝しています」
斎藤が行方知れずと思っている剣心に真実を打ち明けられないのは苦しいが、夢主は精一杯の気持ちを伝えた。
京都へ行って斎藤と共に闘ってくれたことも、こうして訪ねて来てくれたことも心から嬉しかった。
「それは……志々雄の行動は拙者にも責任があったんだ。俺のせいで幕末の亡霊が生まれてしまったのなら……だから、すべきことを成しただけで俺は……」
「私は一さんを信じています」
「だがっ……」
剣心は夢主の言葉を遮って大きくかぶりを振った。
意識を失いかけていたが、斎藤が炎の中に消えたことは分かっていた。
志々雄のアジトが跡形もなく崩れ落ちたのも聞いている。
葵屋へ来なかった夢主。
話を繋げれば、斎藤は戻っていない。
皆の脱出の力となり、活路を開いた男が、消えてしまった。
剣心は夢主に掛ける言葉を見つけられずにいた。
「緋村さんは、私を信じてくれませんか」
「夢主……殿を」
「はい。私は緋村さんも、一さんも信じています。今は、それだけです」
「今は……まさかお主、」
「所で、覚悟は決まったのですか」
「覚悟?」
剣心は話を逸らされと気付いたが、夢主の問いかけを無視出来なかった。
いつだったか河原で訊ねられた『覚悟』を思い出す。
自分を愛おしんでくれる人の想いを受け入れ、大切だと感じるその人のそばで生きていく。今度こそ守り、共に生きていく覚悟。
「あぁ、ようやく」
「ふふっ、それは良かったです。信じて……くださいね。ご自分のその想いと、想う人の存在を。何があっても諦めないでください」
妙な言い回しに剣心は首をひねった。
先程の誤魔化しといい、意味深な言葉といい、夢主はやはり何か知っているのではないか。
斎藤の生死に関しても知っているか、秘しているのかもしれない。
訊きたいが、それは夢主の意思に反する。
察した剣心は少しだけ穏やかに微笑んだ。
「信じるでござるよ、お主を。それに……皆のことを」
「はい」
夢主は笑って別れの挨拶をした。
夕刻、沖田の屋敷の門が閉ざされる。
沖田と栄次は夕餉の前に井戸端で水浴びをすると言い、二人で道場脇の井戸へ向かった。
夢主は斎藤と夕餉を取るつもりだ。
そろそろ家へ戻ろうとした時、大きな門の脇にある潜り戸が開いた。
「一さん!おかえりなさい、お早いですね」
「あぁ早く戻れたな」
沖田と栄次の声を耳にした斎藤は、顔を見せて帰るかと道場の方角を見た。
「昼間、緋村さんがいらしたんですよ」
「ほぅ」
「一さんのことは伏せておきましたから安心してください」
「そうか」
言いつけを守ってくれた夢主。髪を撫でるように触れて礼を伝え、誰もいないのをいいことに、
「これも礼だ」
と唇を重ねた。
ふふっと照れ笑いをする夢主につられて斎藤も微笑するが、不意に門を振り返って顔をしかめた。
嫌な予感がする。
抜刀斎と共に東京へ戻った連中。
奴が訪ねて来たのなら、同じ行動をとる者がいても不思議ではない。
特に夢主に執着を見せるあの男。
嫌な予感はすぐさま的中した。
門の外から夢主を呼ぶ声がする。左之助だ。
「ちっ、何しに来やがった」
「どうしましょう……」
「放って置け、すぐに去るさ」
鉢合わせなくて良かった。
斎藤は夢主の背を押して門から遠ざけた。
阿呆が不法侵入しても夢主に会わせず、斎藤自身も姿を見せはしない。
沖田の座敷に上がり込み、障子を閉める。
しかし夢主を呼ぶ声はしつこく続き、門を叩く音が響いた。
「一さん……」
「出るな」
「でも……心配してるんです、私だけなら顔を見せても」
「構うか、すぐに諦めて帰るさ」
夢主に声を上げさせない為、斎藤は口を塞ぐようにその身をすっぽり覆って抱きしめた。
俺の望みを受け入れてくれと言わんばかりの力みが腕から伝わる。
「大丈夫です、わかりました……一さん」
夢主はもう行く気はありませんと斎藤を安心させた。
こんな態度は滅多にない。余程自らの生死を隠しておきたいのか、もしくは左之助に自分を会わせたくないのか。
きっと両方。夢主は斎藤の顔を覗きこんで微笑んだ。
そうこうしていると沖田が戻って来た。
障子越しに影が見える。
顔は見えないのに笑っているのが分かった。斎藤が夢主を引き留めたのを察していた。
「左之助さんですね」
「捨て置け」
「そうは言ってもご近所迷惑です。僕が話をつけてきますよ。安心してください、お望み通り中に入れませんから」
そう言うと沖田は屋敷の主らしく、堂々と庭を突き抜けて行った。
箒を動かす夢主を見つけた人影は一旦立ち止まるが、意を決したように早足で歩き出す。
紅い着物に白い袴、思いきり気まずそうな顔で剣心がやって来た。
「っ、夢主殿」
志々雄のアジトで別れたきり、顔を見ていなかった。気になって屋敷を訪ねたのだ。
「……夢主殿」
「緋村さん……」
「夢主殿、斎藤は……斎藤は」
剣心は夢主の顔色を窺った。
よもや生きて帰り、合流しているのではないかと期待したが、夢主の顔からは本音が読み取れない。
剣心は俯いて首を振った。
「すまない」
「顔を上げてください、緋村さんが謝ることなんて何一つ……一さんに力をお貸しくださって感謝しています」
斎藤が行方知れずと思っている剣心に真実を打ち明けられないのは苦しいが、夢主は精一杯の気持ちを伝えた。
京都へ行って斎藤と共に闘ってくれたことも、こうして訪ねて来てくれたことも心から嬉しかった。
「それは……志々雄の行動は拙者にも責任があったんだ。俺のせいで幕末の亡霊が生まれてしまったのなら……だから、すべきことを成しただけで俺は……」
「私は一さんを信じています」
「だがっ……」
剣心は夢主の言葉を遮って大きくかぶりを振った。
意識を失いかけていたが、斎藤が炎の中に消えたことは分かっていた。
志々雄のアジトが跡形もなく崩れ落ちたのも聞いている。
葵屋へ来なかった夢主。
話を繋げれば、斎藤は戻っていない。
皆の脱出の力となり、活路を開いた男が、消えてしまった。
剣心は夢主に掛ける言葉を見つけられずにいた。
「緋村さんは、私を信じてくれませんか」
「夢主……殿を」
「はい。私は緋村さんも、一さんも信じています。今は、それだけです」
「今は……まさかお主、」
「所で、覚悟は決まったのですか」
「覚悟?」
剣心は話を逸らされと気付いたが、夢主の問いかけを無視出来なかった。
いつだったか河原で訊ねられた『覚悟』を思い出す。
自分を愛おしんでくれる人の想いを受け入れ、大切だと感じるその人のそばで生きていく。今度こそ守り、共に生きていく覚悟。
「あぁ、ようやく」
「ふふっ、それは良かったです。信じて……くださいね。ご自分のその想いと、想う人の存在を。何があっても諦めないでください」
妙な言い回しに剣心は首をひねった。
先程の誤魔化しといい、意味深な言葉といい、夢主はやはり何か知っているのではないか。
斎藤の生死に関しても知っているか、秘しているのかもしれない。
訊きたいが、それは夢主の意思に反する。
察した剣心は少しだけ穏やかに微笑んだ。
「信じるでござるよ、お主を。それに……皆のことを」
「はい」
夢主は笑って別れの挨拶をした。
夕刻、沖田の屋敷の門が閉ざされる。
沖田と栄次は夕餉の前に井戸端で水浴びをすると言い、二人で道場脇の井戸へ向かった。
夢主は斎藤と夕餉を取るつもりだ。
そろそろ家へ戻ろうとした時、大きな門の脇にある潜り戸が開いた。
「一さん!おかえりなさい、お早いですね」
「あぁ早く戻れたな」
沖田と栄次の声を耳にした斎藤は、顔を見せて帰るかと道場の方角を見た。
「昼間、緋村さんがいらしたんですよ」
「ほぅ」
「一さんのことは伏せておきましたから安心してください」
「そうか」
言いつけを守ってくれた夢主。髪を撫でるように触れて礼を伝え、誰もいないのをいいことに、
「これも礼だ」
と唇を重ねた。
ふふっと照れ笑いをする夢主につられて斎藤も微笑するが、不意に門を振り返って顔をしかめた。
嫌な予感がする。
抜刀斎と共に東京へ戻った連中。
奴が訪ねて来たのなら、同じ行動をとる者がいても不思議ではない。
特に夢主に執着を見せるあの男。
嫌な予感はすぐさま的中した。
門の外から夢主を呼ぶ声がする。左之助だ。
「ちっ、何しに来やがった」
「どうしましょう……」
「放って置け、すぐに去るさ」
鉢合わせなくて良かった。
斎藤は夢主の背を押して門から遠ざけた。
阿呆が不法侵入しても夢主に会わせず、斎藤自身も姿を見せはしない。
沖田の座敷に上がり込み、障子を閉める。
しかし夢主を呼ぶ声はしつこく続き、門を叩く音が響いた。
「一さん……」
「出るな」
「でも……心配してるんです、私だけなら顔を見せても」
「構うか、すぐに諦めて帰るさ」
夢主に声を上げさせない為、斎藤は口を塞ぐようにその身をすっぽり覆って抱きしめた。
俺の望みを受け入れてくれと言わんばかりの力みが腕から伝わる。
「大丈夫です、わかりました……一さん」
夢主はもう行く気はありませんと斎藤を安心させた。
こんな態度は滅多にない。余程自らの生死を隠しておきたいのか、もしくは左之助に自分を会わせたくないのか。
きっと両方。夢主は斎藤の顔を覗きこんで微笑んだ。
そうこうしていると沖田が戻って来た。
障子越しに影が見える。
顔は見えないのに笑っているのが分かった。斎藤が夢主を引き留めたのを察していた。
「左之助さんですね」
「捨て置け」
「そうは言ってもご近所迷惑です。僕が話をつけてきますよ。安心してください、お望み通り中に入れませんから」
そう言うと沖田は屋敷の主らしく、堂々と庭を突き抜けて行った。