エピローグ5・ただいま
夢主名前設定
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斎藤が戻らないまま迎えた戌の日、夢主は沖田と栄次に付き添われて安産祈願のお参りに出かけた。
沖田は僕達で申し訳ないと笑うが、誰よりもそばにいてくれる家族のような人。嬉しいに決まっていますと、夢主は笑い返した。
「一さんも総司さんには感謝していますよ。あまり口には出しませんけど」
「ははっ、あの人は案外しっかり言葉にしてくれますよ」
「そうなんですか、一さんが総司さんに……ちょっと意外です」
「僕達も互いに必要な存在なんです。あ、こんなこと言ったのは内緒ですよ」
心配しなくても大丈夫と、斎藤との信頼関係を認めた沖田。でも恥ずかしいから認めたことは内緒と、人差し指を立てた。
栄次は話を聞いて感じ入っている。大人の男同士の関係が羨ましく思えた。
「栄次君もいずれ友と呼べる人に出会う事でしょう」
「友……」
「歳が近くても離れていても、育った境遇が似ていても異なっていても関係なく、不思議な縁を感じる人が現れますよ」
栄次はそんな存在、今は思い当たらないと俯いた。
育った村で友には出会えなかった。
これから生きていくうえで出会えるだろうか。緋村先生や斎藤先生、井上先生達のような信頼で結ばれる存在に。
「俺には分かりません」
今はただ強くなりたい。
この人の元で剣術を習い、時が来たら警官や軍人になって悪い奴らを懲らしめたい。
それが今の目標だ。
「栄次君?」
「いえ、出会えることを願います」
同じ志を持ち、信頼関係を築く相手に出会えるかもしれない。
未来に希望を描く栄次に、夢主と沖田は顔を見合わせて頷いた。
お参りの帰り道、沖田と栄次が買い出しを引き受けた。
二人に待つよう言われた夢主は、茶屋の店先から通りを眺めて休んでいた。
ここからは赤べこが近い。
景色を見ていると、道の先にある店が思い浮んだ。
様々なことが起こり、最後に妙と会った記憶が曖昧だ。心配しているかもしれない。
立ち寄るべきか迷っていると、思いが通じたのか妙が現れた。荷物を抱えて駆けて来た。
「夢主ちゃん!」
「妙さん!」
店の手伝いを休むようになって数ヶ月、久しぶりに見る妙は以前と変わらぬ人懐っこい顔で笑っている。
人の良さが滲み出た笑顔だ。
「久しぶりやないの、元気してた?薫ちゃん達が京都に行ってから夢主ちゃんも井上はんも姿を見ないから、心配してたのよ」
「ご心配お掛けしてすみません。その……」
「ていうか夢主ちゃん、そのお腹?」
妙は夢主の腹に気付き、話題を変えた。
時間があるのか、すとんと隣に腰を下ろし、荷物も置かれる。
東京の警官も幾人か京都の一件で出張になった、だから夢主の夫も京都に行っており……
どう伝えればよいか考えて身構えたが、妙は夢主が元気ならそれでいいとばかりに、話を変えて笑っている。
「いつの間に!夢主ちゃんお母はんになるん!おめでとう、言ってくれたらお祝いに駆けつけたのに!」
「すみません、ご報告が遅くなりました、ありがとうございます。ちょっと道場も立て込んでて……」
栄次を預かっている。皆と関わりを持たせて良いか判断出来ない。
近くに住めば出会うのは必然。しかし妙は栄次を知らない。
首をひねる夢主をよそに、妙は我が事のように喜んでいる。
「気にせんでえぇのに!だったら赤べこにおいでぇな、お店でお祝いさせて!もしかして体の調子が悪い言うて休んではったのも」
「はい、悪阻で……お話し出来なくてごめんなさい。初めてで不安で……」
もし腹の子が流れたらという不安に、夫が斎藤一だと知られてしまう恐れがあった。
斎藤と剣心の出会いが過ぎ、真実を伝えられると思ったが、今度は生死不明というややこしい状況が加わってしまった。
「えぇのんよぉ、万一を考えたら周りには言い難いわよね、今まで頑張ったやないの!これからは力になるさかい、困ったら言うてな」
言葉を濁しても、責めるどころか祝いの言葉くれる妙の優しさに感極まり、夢主は鼻を啜った。
「うふふ、泣かんといてや」
「あ、ありがとうございます、妙さんっ」
「うちかて沢山お店を助けてもらったんやから、おあいこよ」
妙はふと荷物に目を落とした。
「今からね、小国診療所を訪ねるんよ」
「小国先生を、妙さんお身体が悪いのですか」
「違うんよ、薫ちゃんから手紙が届いたの。東京に戻るって連絡よ、良かったら夢主ちゃんも一緒に来る?神谷道場で宴会の支度をするの」
「そうなんですね、薫さん達が東京に」
剣心達が葵屋を発つ、それは斎藤が京都を離れる報せ。
夢主は顔を綻ばせた。
「嬉しいですね、皆が戻って来るなんて。でも……実は安産祈願のお参り帰りで、この後も用事が……」
「忙しいんやね、もし時間が出来たらおいでぇな、無理せんでえぇけど、来たら皆が喜ぶし」
「はい、ありがとうございます」
「ほな、ウチは一足先に行くな」
「妙さんっ!」
「……どないしたん」
「いえ……あの、また今度ゆっくり話します。皆さんによろしくお伝えください。私は元気です」
「ふふっ、変な夢主ちゃん。分かったわ、伝えておくわね」
夫が警官だと知る妙だが、斎藤一だとはまだ知らない。
剣心達はアジトで斎藤が行方知れずになったと思っている。死んだと考える者もいるだろう。
まだ暫くは真実を伝えられない。
「複雑……だな」
一さんの為なら仕方ないか。
もしどこかで剣心達に出会ったらどんな顔をすればいいのだろう。
夫が斎藤一だと知らない人が、剣心や恵から真実を知るかもしれない。
夢主は小さくなっていく妙の後ろ姿を見つめた。
気にしたらあかんで、そう笑ってくれる妙の姿が見えるようで、夢主は後姿に向かって小さく頭を下げた。
沖田は僕達で申し訳ないと笑うが、誰よりもそばにいてくれる家族のような人。嬉しいに決まっていますと、夢主は笑い返した。
「一さんも総司さんには感謝していますよ。あまり口には出しませんけど」
「ははっ、あの人は案外しっかり言葉にしてくれますよ」
「そうなんですか、一さんが総司さんに……ちょっと意外です」
「僕達も互いに必要な存在なんです。あ、こんなこと言ったのは内緒ですよ」
心配しなくても大丈夫と、斎藤との信頼関係を認めた沖田。でも恥ずかしいから認めたことは内緒と、人差し指を立てた。
栄次は話を聞いて感じ入っている。大人の男同士の関係が羨ましく思えた。
「栄次君もいずれ友と呼べる人に出会う事でしょう」
「友……」
「歳が近くても離れていても、育った境遇が似ていても異なっていても関係なく、不思議な縁を感じる人が現れますよ」
栄次はそんな存在、今は思い当たらないと俯いた。
育った村で友には出会えなかった。
これから生きていくうえで出会えるだろうか。緋村先生や斎藤先生、井上先生達のような信頼で結ばれる存在に。
「俺には分かりません」
今はただ強くなりたい。
この人の元で剣術を習い、時が来たら警官や軍人になって悪い奴らを懲らしめたい。
それが今の目標だ。
「栄次君?」
「いえ、出会えることを願います」
同じ志を持ち、信頼関係を築く相手に出会えるかもしれない。
未来に希望を描く栄次に、夢主と沖田は顔を見合わせて頷いた。
お参りの帰り道、沖田と栄次が買い出しを引き受けた。
二人に待つよう言われた夢主は、茶屋の店先から通りを眺めて休んでいた。
ここからは赤べこが近い。
景色を見ていると、道の先にある店が思い浮んだ。
様々なことが起こり、最後に妙と会った記憶が曖昧だ。心配しているかもしれない。
立ち寄るべきか迷っていると、思いが通じたのか妙が現れた。荷物を抱えて駆けて来た。
「夢主ちゃん!」
「妙さん!」
店の手伝いを休むようになって数ヶ月、久しぶりに見る妙は以前と変わらぬ人懐っこい顔で笑っている。
人の良さが滲み出た笑顔だ。
「久しぶりやないの、元気してた?薫ちゃん達が京都に行ってから夢主ちゃんも井上はんも姿を見ないから、心配してたのよ」
「ご心配お掛けしてすみません。その……」
「ていうか夢主ちゃん、そのお腹?」
妙は夢主の腹に気付き、話題を変えた。
時間があるのか、すとんと隣に腰を下ろし、荷物も置かれる。
東京の警官も幾人か京都の一件で出張になった、だから夢主の夫も京都に行っており……
どう伝えればよいか考えて身構えたが、妙は夢主が元気ならそれでいいとばかりに、話を変えて笑っている。
「いつの間に!夢主ちゃんお母はんになるん!おめでとう、言ってくれたらお祝いに駆けつけたのに!」
「すみません、ご報告が遅くなりました、ありがとうございます。ちょっと道場も立て込んでて……」
栄次を預かっている。皆と関わりを持たせて良いか判断出来ない。
近くに住めば出会うのは必然。しかし妙は栄次を知らない。
首をひねる夢主をよそに、妙は我が事のように喜んでいる。
「気にせんでえぇのに!だったら赤べこにおいでぇな、お店でお祝いさせて!もしかして体の調子が悪い言うて休んではったのも」
「はい、悪阻で……お話し出来なくてごめんなさい。初めてで不安で……」
もし腹の子が流れたらという不安に、夫が斎藤一だと知られてしまう恐れがあった。
斎藤と剣心の出会いが過ぎ、真実を伝えられると思ったが、今度は生死不明というややこしい状況が加わってしまった。
「えぇのんよぉ、万一を考えたら周りには言い難いわよね、今まで頑張ったやないの!これからは力になるさかい、困ったら言うてな」
言葉を濁しても、責めるどころか祝いの言葉くれる妙の優しさに感極まり、夢主は鼻を啜った。
「うふふ、泣かんといてや」
「あ、ありがとうございます、妙さんっ」
「うちかて沢山お店を助けてもらったんやから、おあいこよ」
妙はふと荷物に目を落とした。
「今からね、小国診療所を訪ねるんよ」
「小国先生を、妙さんお身体が悪いのですか」
「違うんよ、薫ちゃんから手紙が届いたの。東京に戻るって連絡よ、良かったら夢主ちゃんも一緒に来る?神谷道場で宴会の支度をするの」
「そうなんですね、薫さん達が東京に」
剣心達が葵屋を発つ、それは斎藤が京都を離れる報せ。
夢主は顔を綻ばせた。
「嬉しいですね、皆が戻って来るなんて。でも……実は安産祈願のお参り帰りで、この後も用事が……」
「忙しいんやね、もし時間が出来たらおいでぇな、無理せんでえぇけど、来たら皆が喜ぶし」
「はい、ありがとうございます」
「ほな、ウチは一足先に行くな」
「妙さんっ!」
「……どないしたん」
「いえ……あの、また今度ゆっくり話します。皆さんによろしくお伝えください。私は元気です」
「ふふっ、変な夢主ちゃん。分かったわ、伝えておくわね」
夫が警官だと知る妙だが、斎藤一だとはまだ知らない。
剣心達はアジトで斎藤が行方知れずになったと思っている。死んだと考える者もいるだろう。
まだ暫くは真実を伝えられない。
「複雑……だな」
一さんの為なら仕方ないか。
もしどこかで剣心達に出会ったらどんな顔をすればいいのだろう。
夫が斎藤一だと知らない人が、剣心や恵から真実を知るかもしれない。
夢主は小さくなっていく妙の後ろ姿を見つめた。
気にしたらあかんで、そう笑ってくれる妙の姿が見えるようで、夢主は後姿に向かって小さく頭を下げた。