76.最後の十本刀、最後の仕事
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地図をすっかり記憶した蒼紫は夢主にを渡した。
中身を確認する夢主に地図の読み方を伝える。
「分かるか、地図にある×印は恐らく兵の守りが厚い場所か罠が仕掛けられた場所、そこを避けて抜け道を使え。細い道が普段使われる事のない道だろう」
「わかりました」
「時間が経つほど脱出の可能性は低くなる。急いで出口を目指せ」
御庭番衆の経験を生かした助言。
夢主は客人と言えども実質、捕虜に近い。どちらに勝敗が傾いても、争いの後は捕虜の立場が危うくなる。
蒼紫は書庫から顔を出して廊下を確認した。雑兵の気配はない。方治に指示され其々の持ち場にいるのだろう。
「今なら動ける」
「はい。地図、ありがとうございます」
「礼なら斎藤に言え、奴が俺に渡した地図をお前にやったまでのこと」
「はい……」
「ここを出たら向かう先は逆。俺を待つ必要はない」
俺はもう少し時間が欲しいと蒼紫は扉にもたれ掛かった。
動けるお前は一人で出口を目指すべきだ。早く行けと促すが、夢主は動けない蒼紫を心配していた。
「緋村さんは宗次郎との闘いで時間も体力も消耗なさるはずです。ですから……」
「案ずるな、分かっている。俺は俺に出来ることを、してみせる」
蒼紫は苦しそうに歩き始めた。
俺がここにいては夢主が動きそうにないと、重たい体を動かした。
力でも強い言葉でもなく、行動で示そうとしていた。
「四乃森さん、ここを出たら……葵屋で会いましょう。私、葵屋にご挨拶に伺います」
「……そうか」
振り返った蒼紫はフッと微かに笑んだ。
元御庭番衆の仲間を捨てた俺にそんな事を言うとは滑稽だ。だがかつての仲間が俺を許して迎えてくれる、そんな優しすぎる連中であるのも知っている。
何と詫びれば良いか言葉が見つからない。先ずは、ここですべき事を成し遂げて、それから誠意を尽くし頭を下げるしかあるまい。
「葵屋だな、承知した」
「はい!楽しみにしています!」
「行け」
「はい。ありがとうございました」
蒼紫は黙って頷いた。恩があるのはお互い様だ。話はゆっくり、葵屋で。
長い外套を翻して蒼紫は負傷を感じさせぬ足取りで去って行った。アジトの奥、志々雄真実の闘場へ、出来れば闘いが始まるまでに辿り着きたい。
しかし無理をして傷を開き、体力を消耗しては意味がない。蒼紫はしっかりした足取りながら、静かに歩んで行った。
蒼紫が目指す道の先を斎藤は進んでいた。
現在の情報では残る十本刀は瀬田宗次郎ただ一人。
だがその残った一人は志々雄に劣らぬ強者。
書庫の様子と四乃森蒼紫の状況を見るに、抜刀斎も無傷ではあるまい。
手負いで新月村で逆刃刀を折った男の相手をして、その直後、志々雄真実を倒せるのか。
可能性はある。
山籠りで何を得たかは知らんが、目付きが変わっていた。
瀬田宗次郎には勝つだろう。
だが甘いあの男の事、体に傷を増やす面倒な戦いをする恐れがある。
「確かにあの青年を斬るには惜しいがな」
擦り込まれた弱肉強食の単純な思考で闘っているなら、志々雄が負けた後こちらへ引き込むことも可能だろう。
あの瞬足と頭の回転が悪くない辺り、密偵向きだ。
「抜刀斎が上手く切り抜けてくれることを願うか」
瀬田宗次郎を倒し、志々雄のもとへ。
抜刀斎を相手にすればあの男にも隙が生まれるはず。
残念だが今の俺が志々雄に止めを刺せる機会は多くない。生まれた隙を逃さず、一撃必殺で撃ちこむべし。
アジトの奥へ進むが、両太腿の傷が鈍く痛む。
走ることも可能だが得策ではない。
今は抜刀斎が瀬田宗次郎と闘う時間を利用して、確実に志々雄のもとへ辿り着く。
先回り出来たなら周辺の部屋に忍んで抜刀斎達の到着を待ち、体力の回復に努め、闘いの最中に斬り込めれば言うことなし。
事が始まっていれば仕方がない、体はきついが一度きりの機会を逃す訳にはいかない。
「あとは、夢主の脱出を願うばかり、か」
今後の動きを頭で整理した。最後に浮かぶ唯一の気掛かり。いくら案じても物事は変わらない。
気持ちを落ち着ける為、煙草を吸いたい所だが臭いでアジトの連中に勘付かれては困る。
煙草を咥えたい気分を堪えて、斎藤は先を目指した。
中身を確認する夢主に地図の読み方を伝える。
「分かるか、地図にある×印は恐らく兵の守りが厚い場所か罠が仕掛けられた場所、そこを避けて抜け道を使え。細い道が普段使われる事のない道だろう」
「わかりました」
「時間が経つほど脱出の可能性は低くなる。急いで出口を目指せ」
御庭番衆の経験を生かした助言。
夢主は客人と言えども実質、捕虜に近い。どちらに勝敗が傾いても、争いの後は捕虜の立場が危うくなる。
蒼紫は書庫から顔を出して廊下を確認した。雑兵の気配はない。方治に指示され其々の持ち場にいるのだろう。
「今なら動ける」
「はい。地図、ありがとうございます」
「礼なら斎藤に言え、奴が俺に渡した地図をお前にやったまでのこと」
「はい……」
「ここを出たら向かう先は逆。俺を待つ必要はない」
俺はもう少し時間が欲しいと蒼紫は扉にもたれ掛かった。
動けるお前は一人で出口を目指すべきだ。早く行けと促すが、夢主は動けない蒼紫を心配していた。
「緋村さんは宗次郎との闘いで時間も体力も消耗なさるはずです。ですから……」
「案ずるな、分かっている。俺は俺に出来ることを、してみせる」
蒼紫は苦しそうに歩き始めた。
俺がここにいては夢主が動きそうにないと、重たい体を動かした。
力でも強い言葉でもなく、行動で示そうとしていた。
「四乃森さん、ここを出たら……葵屋で会いましょう。私、葵屋にご挨拶に伺います」
「……そうか」
振り返った蒼紫はフッと微かに笑んだ。
元御庭番衆の仲間を捨てた俺にそんな事を言うとは滑稽だ。だがかつての仲間が俺を許して迎えてくれる、そんな優しすぎる連中であるのも知っている。
何と詫びれば良いか言葉が見つからない。先ずは、ここですべき事を成し遂げて、それから誠意を尽くし頭を下げるしかあるまい。
「葵屋だな、承知した」
「はい!楽しみにしています!」
「行け」
「はい。ありがとうございました」
蒼紫は黙って頷いた。恩があるのはお互い様だ。話はゆっくり、葵屋で。
長い外套を翻して蒼紫は負傷を感じさせぬ足取りで去って行った。アジトの奥、志々雄真実の闘場へ、出来れば闘いが始まるまでに辿り着きたい。
しかし無理をして傷を開き、体力を消耗しては意味がない。蒼紫はしっかりした足取りながら、静かに歩んで行った。
蒼紫が目指す道の先を斎藤は進んでいた。
現在の情報では残る十本刀は瀬田宗次郎ただ一人。
だがその残った一人は志々雄に劣らぬ強者。
書庫の様子と四乃森蒼紫の状況を見るに、抜刀斎も無傷ではあるまい。
手負いで新月村で逆刃刀を折った男の相手をして、その直後、志々雄真実を倒せるのか。
可能性はある。
山籠りで何を得たかは知らんが、目付きが変わっていた。
瀬田宗次郎には勝つだろう。
だが甘いあの男の事、体に傷を増やす面倒な戦いをする恐れがある。
「確かにあの青年を斬るには惜しいがな」
擦り込まれた弱肉強食の単純な思考で闘っているなら、志々雄が負けた後こちらへ引き込むことも可能だろう。
あの瞬足と頭の回転が悪くない辺り、密偵向きだ。
「抜刀斎が上手く切り抜けてくれることを願うか」
瀬田宗次郎を倒し、志々雄のもとへ。
抜刀斎を相手にすればあの男にも隙が生まれるはず。
残念だが今の俺が志々雄に止めを刺せる機会は多くない。生まれた隙を逃さず、一撃必殺で撃ちこむべし。
アジトの奥へ進むが、両太腿の傷が鈍く痛む。
走ることも可能だが得策ではない。
今は抜刀斎が瀬田宗次郎と闘う時間を利用して、確実に志々雄のもとへ辿り着く。
先回り出来たなら周辺の部屋に忍んで抜刀斎達の到着を待ち、体力の回復に努め、闘いの最中に斬り込めれば言うことなし。
事が始まっていれば仕方がない、体はきついが一度きりの機会を逃す訳にはいかない。
「あとは、夢主の脱出を願うばかり、か」
今後の動きを頭で整理した。最後に浮かぶ唯一の気掛かり。いくら案じても物事は変わらない。
気持ちを落ち着ける為、煙草を吸いたい所だが臭いでアジトの連中に勘付かれては困る。
煙草を咥えたい気分を堪えて、斎藤は先を目指した。