75.書庫
夢主名前設定
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巨大な仏像の間、激しい闘いを終えて残ったのは安慈和尚一人。
部屋を出た皆は聞かされた葵屋の危機に足を速めていた。
もう一つ語られた、和尚の過去に沈黙して歩んでいた。
「大丈夫か」
一人冷静な斎藤の問いに夢主は黙って頷いた。廊下を急ぐうち、大きく揺れていた感情は徐々に落ち着いていった。
物語で知った悲話とは違う、生身の人間から語られた理不尽で辛い過去。広い安慈の部屋、斎藤の影に隠れて咽び泣いた。
和尚は怒りに身を包み、憐みなど求めていなかった。事態を悪化させぬよう、懸命に声を殺して悲しみで体を震わせた。
やがて左之助の拳と言葉で失っていたものを取り戻した和尚が葵屋の危機を知らせてくれたのだ。
由美は十本刀の敗北に戸惑っていた。
思いも寄らぬ敗北だが次の相手は安慈和尚にも負けない実力の持ち主。
今度こそと勝ちを確信する。しかし気になるのは……由美の横目に夢主が映った。
敵の過去に俯く優しさに胸が苦しくなる。その隣には背の高い日本刀を帯びた警官。
……この子の大切な人……
「何だ」
「なっ、何でもないわよ。もうすぐ着くわ、次の相手……私は好きじゃないけど実力は安慈和尚以上」
「ほぅ、そいつは楽しみだな」
ニヤリと余裕を見せられた由美がフンと冷たく目を逸らす。
目を逸らした先にいた夢主と目が合うと、赤い目で無理をした微笑みが返ってきた。
……笑ってる場合じゃないのよ、全く馬鹿なんだから……
先を進むのを躊躇いたくなる。でもこれは志々雄様にとって避けられない闘い。決戦の始まりに、確認したではないか。
由美は迷いを断ち切るように辿り着いた扉を見上げた。
「着いたわよ、第二の間」
由美が言うや否や扉を蹴り倒す剣心。
夢主はまたも隠れた。部屋の主を知っている。怖い目に合された盲目の男、魚沼宇水。姿を見たくなかった。
宇水が出迎えの言葉を述べ、今にも斬り掛かりそうな剣心を斎藤が制する。
焦るなと述べながら、安慈の時と違う反応を見せる夢主をちらと視界に入れた。
「奴を知っているのか」
夢主は頷いた。
俄かに見える宇水の姿に体が硬直する。厭らしく歪んだ笑みを感じ、悪寒が走った。
怖さを覚えると同時に斎藤を襲う足の怪我を思い出す。
大きな背に手を添え、再び指で言葉を伝えようか迷うが、迷いは見透かされた。
「何も言うな」
「っ……」
「余計なことは伝えるな」
闘いに水を差すなと、斎藤は俄かに振り返って冷静な視線を送った。
お前が踏み込んではならない領域があるんだろう、昔から語っていた変えたくない歴史とやら。
お前が動けば変わってしまうかもしれない闘いの行方とその先の世界。
訴える視線に夢主は固まってしまった。
宇水は座ったまま気配を探っていた。
背の高い男の後ろにひっそりと感じる小さな女の気配、一度襲ったことがある気配だ。
部屋を出た皆は聞かされた葵屋の危機に足を速めていた。
もう一つ語られた、和尚の過去に沈黙して歩んでいた。
「大丈夫か」
一人冷静な斎藤の問いに夢主は黙って頷いた。廊下を急ぐうち、大きく揺れていた感情は徐々に落ち着いていった。
物語で知った悲話とは違う、生身の人間から語られた理不尽で辛い過去。広い安慈の部屋、斎藤の影に隠れて咽び泣いた。
和尚は怒りに身を包み、憐みなど求めていなかった。事態を悪化させぬよう、懸命に声を殺して悲しみで体を震わせた。
やがて左之助の拳と言葉で失っていたものを取り戻した和尚が葵屋の危機を知らせてくれたのだ。
由美は十本刀の敗北に戸惑っていた。
思いも寄らぬ敗北だが次の相手は安慈和尚にも負けない実力の持ち主。
今度こそと勝ちを確信する。しかし気になるのは……由美の横目に夢主が映った。
敵の過去に俯く優しさに胸が苦しくなる。その隣には背の高い日本刀を帯びた警官。
……この子の大切な人……
「何だ」
「なっ、何でもないわよ。もうすぐ着くわ、次の相手……私は好きじゃないけど実力は安慈和尚以上」
「ほぅ、そいつは楽しみだな」
ニヤリと余裕を見せられた由美がフンと冷たく目を逸らす。
目を逸らした先にいた夢主と目が合うと、赤い目で無理をした微笑みが返ってきた。
……笑ってる場合じゃないのよ、全く馬鹿なんだから……
先を進むのを躊躇いたくなる。でもこれは志々雄様にとって避けられない闘い。決戦の始まりに、確認したではないか。
由美は迷いを断ち切るように辿り着いた扉を見上げた。
「着いたわよ、第二の間」
由美が言うや否や扉を蹴り倒す剣心。
夢主はまたも隠れた。部屋の主を知っている。怖い目に合された盲目の男、魚沼宇水。姿を見たくなかった。
宇水が出迎えの言葉を述べ、今にも斬り掛かりそうな剣心を斎藤が制する。
焦るなと述べながら、安慈の時と違う反応を見せる夢主をちらと視界に入れた。
「奴を知っているのか」
夢主は頷いた。
俄かに見える宇水の姿に体が硬直する。厭らしく歪んだ笑みを感じ、悪寒が走った。
怖さを覚えると同時に斎藤を襲う足の怪我を思い出す。
大きな背に手を添え、再び指で言葉を伝えようか迷うが、迷いは見透かされた。
「何も言うな」
「っ……」
「余計なことは伝えるな」
闘いに水を差すなと、斎藤は俄かに振り返って冷静な視線を送った。
お前が踏み込んではならない領域があるんだろう、昔から語っていた変えたくない歴史とやら。
お前が動けば変わってしまうかもしれない闘いの行方とその先の世界。
訴える視線に夢主は固まってしまった。
宇水は座ったまま気配を探っていた。
背の高い男の後ろにひっそりと感じる小さな女の気配、一度襲ったことがある気配だ。