74.指伝い
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主が砦の入口へ向かう指示を受けたのは朝。
宗次郎との朝餉の後、志々雄を訪れるよう言われ、そこで命令を受けた。
日課になった宗次郎との食事、夢主は重たい瞼で席に着いた。
身籠ってから一層早起きが苦手になっていた。
香ばしい焼けた魚の匂いに朝の食欲を唆られ、徐々に目が覚めていく。
宗次郎は爽やかな顔で器用に骨を残して魚の身を食していった。
「宗次郎って朝苦手そうなのに、目覚めがいいんですね」
「寝坊助に見えますか?あははっ。僕は昔からの癖で早起きなんです。起きて朝から仕事をするのが当たり前でしたから」
今は早起きの必要も無いのに、体に染み付いた習性というやつか。
瞼が重たい夢主に対し、宗次郎はいつもの大きな目を見せている。
「そうそう、今日みたいですね、緋村さん達が来るの。斥候から連絡があったそうです」
飲み込む喉に何かが詰まりそうだった。
「楽しみだな、新月村の決着、今日こそしっかり付けないと」
「宗次郎……」
「食事が終わったら一緒に志々雄さんの部屋へ行きましょう」
「……はい」
「志々雄さんの国盗りが終わったらやっぱり東京に住むのかな、夢主さんはどんな部屋がお好みですか」
「えっ」
「床は畳がいいとか木がいいとか、調度品はこんなのがいいとか。大体の望みは叶いますよ」
「私は……部屋はいりません」
ここに留まらず、東京で志々雄達と暮らすこともない。何故なら今日、全てが決するから。
夢主は考える必要はないと暗に訴えた。
「あははっ、夢主さんは遠慮屋さんなんですね。急ぎませんから、何か考えておいてください。……うん、今朝のご飯も美味しいなぁ」
何かを感じているのかいないのか、宗次郎は楽しそうに箸を動かして笑った。
食後、宗次郎に連れられて志々雄の閨を訊ねると、宗次郎は早々に退出の指示を受けた。
戦支度に抜かりはないか十本刀の様子を見て来いと命じられたのだ。
部屋に残ったのは志々雄一人。決戦を前にしながら、方治はおろか由美の姿さえない。
ベッドに腰掛け、傍にはもちろん無限刃を置いていた。
「方治さんと由美さんは……」
「方治は兵の配置確認に向かったぜ。由美は風呂だ。今日は騒がしくなりそうだからってな、入れなくなると嫌なんだとよ」
「そうですか……」
志々雄は度々読めない行動に出て夢主を脅す。
部屋に二人きりでは身構えてしまう。夢主は部屋を見回して状況を確かめていた。
そんな警戒心を感じて志々雄は愉悦で口角を歪ませた。多くを知る夢主が予測し得ない事態が起こる事を悦んでいた。
「お前に由美と一緒にやってもらう事がある」
「道案内……ですか」
満足げだった顔にニヤリと皮肉のような笑みが加わった。
志々雄は力で支配し全ての掌握を望みながら、自由にならない存在を愉しんでいた。
「あぁ。だがそれは由美に任せる。貴様は見届けろ」
「見届ける……」
「時代が変わる瞬間を見ろ。お前が思う時代なんざ所詮偽物、これから見る時代こそ真の新時代、俺が創り上げる新しい時代だ!」
殺気がほとばしり、夢主の背筋に悪寒が走る。
何が何でも夢主に見えている世界を壊すことを志々雄は望んでいた。
夢主自身を殺したのではつまらない。心を壊すのは難しい。
ならば幕末から数々の出来事を言い当てる夢主が語る未来とやらを壊してやると。
志々雄はベッドに置かれた着物を顎で示した。
由美の好みか志々雄の好みか、鮮やかな赤い着物。
「着替えろ」
短く命令され、夢主は戸惑いながら着替えに手を伸ばした。
宗次郎との朝餉の後、志々雄を訪れるよう言われ、そこで命令を受けた。
日課になった宗次郎との食事、夢主は重たい瞼で席に着いた。
身籠ってから一層早起きが苦手になっていた。
香ばしい焼けた魚の匂いに朝の食欲を唆られ、徐々に目が覚めていく。
宗次郎は爽やかな顔で器用に骨を残して魚の身を食していった。
「宗次郎って朝苦手そうなのに、目覚めがいいんですね」
「寝坊助に見えますか?あははっ。僕は昔からの癖で早起きなんです。起きて朝から仕事をするのが当たり前でしたから」
今は早起きの必要も無いのに、体に染み付いた習性というやつか。
瞼が重たい夢主に対し、宗次郎はいつもの大きな目を見せている。
「そうそう、今日みたいですね、緋村さん達が来るの。斥候から連絡があったそうです」
飲み込む喉に何かが詰まりそうだった。
「楽しみだな、新月村の決着、今日こそしっかり付けないと」
「宗次郎……」
「食事が終わったら一緒に志々雄さんの部屋へ行きましょう」
「……はい」
「志々雄さんの国盗りが終わったらやっぱり東京に住むのかな、夢主さんはどんな部屋がお好みですか」
「えっ」
「床は畳がいいとか木がいいとか、調度品はこんなのがいいとか。大体の望みは叶いますよ」
「私は……部屋はいりません」
ここに留まらず、東京で志々雄達と暮らすこともない。何故なら今日、全てが決するから。
夢主は考える必要はないと暗に訴えた。
「あははっ、夢主さんは遠慮屋さんなんですね。急ぎませんから、何か考えておいてください。……うん、今朝のご飯も美味しいなぁ」
何かを感じているのかいないのか、宗次郎は楽しそうに箸を動かして笑った。
食後、宗次郎に連れられて志々雄の閨を訊ねると、宗次郎は早々に退出の指示を受けた。
戦支度に抜かりはないか十本刀の様子を見て来いと命じられたのだ。
部屋に残ったのは志々雄一人。決戦を前にしながら、方治はおろか由美の姿さえない。
ベッドに腰掛け、傍にはもちろん無限刃を置いていた。
「方治さんと由美さんは……」
「方治は兵の配置確認に向かったぜ。由美は風呂だ。今日は騒がしくなりそうだからってな、入れなくなると嫌なんだとよ」
「そうですか……」
志々雄は度々読めない行動に出て夢主を脅す。
部屋に二人きりでは身構えてしまう。夢主は部屋を見回して状況を確かめていた。
そんな警戒心を感じて志々雄は愉悦で口角を歪ませた。多くを知る夢主が予測し得ない事態が起こる事を悦んでいた。
「お前に由美と一緒にやってもらう事がある」
「道案内……ですか」
満足げだった顔にニヤリと皮肉のような笑みが加わった。
志々雄は力で支配し全ての掌握を望みながら、自由にならない存在を愉しんでいた。
「あぁ。だがそれは由美に任せる。貴様は見届けろ」
「見届ける……」
「時代が変わる瞬間を見ろ。お前が思う時代なんざ所詮偽物、これから見る時代こそ真の新時代、俺が創り上げる新しい時代だ!」
殺気がほとばしり、夢主の背筋に悪寒が走る。
何が何でも夢主に見えている世界を壊すことを志々雄は望んでいた。
夢主自身を殺したのではつまらない。心を壊すのは難しい。
ならば幕末から数々の出来事を言い当てる夢主が語る未来とやらを壊してやると。
志々雄はベッドに置かれた着物を顎で示した。
由美の好みか志々雄の好みか、鮮やかな赤い着物。
「着替えろ」
短く命令され、夢主は戸惑いながら着替えに手を伸ばした。