71.踏みだす力
夢主名前設定
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――夢主さん……夢主さん……
「ん~……」
遠くから聞こえる自分を呼ぶ声。
ふわふわした優しい声が自分を探している。
眠りの中にいた夢主は薄っすらと意識を取り戻した。
「……ん……」
「夢主さん、大丈夫ですか」
目の前で微笑む青年。
ここはどこだろう……ぼんやり考えるうち、現実を思い出した。
「……宗次郎!あっ、どうしてっ」
「どうしてって……もうすぐお昼ですよ」
「そっか……お昼寝してたんだ」
「朝ご飯の後一度もお見かけしないからどうしたのかと思ったら、お昼寝されてたんですね。体の調子でも悪いんですか」
「いえ、ちょっと眠たくて……大丈夫です」
「そうですか、良かった」
宗次郎から聞ける「良かった」の一言が、夢主にはとても大切な言葉に感じられる。
にこりと微笑んだ宗次郎の頭が傾き、いつものように髪がさらりと流れた。
この比叡山アジトに連れて来られて二週間ほどが経つ。
部屋を訪れた宗次郎、昼ご飯の誘いかと思えば、暫しの別れを告げられた。
「ちょっと野暮用でここを離れます」
「野暮用……」
「えぇ。数日で戻りますよ。出来る限り志々雄さんや由美さんから離れないでください」
野暮用、鋼鉄艦煉獄の出航準備。目的は言われずとも分かった。
淋しいと感じてしまうのはおかしいのに、淋しいと感じてしまう。
雑兵達は志々雄に忠実で、客人に手を出そうという輩はいない。
それでも離れるなと言われるのは、緊張が高まっている事を知らせた。
宗次郎から助言を受ける以前から、由美とは日に一度はお喋りに花を咲かせていた。
だが志々雄と由美は二人の時間も過ごす為、四六時中そばにはいられない。
由美を訪ねる建前で志々雄の部屋を訪れては共に過ごし、空気を察して場を離れていた。
「仲睦まじいのは素敵だしちょっと羨ましいけど、変な気分……」
目配せをしてくるのはいつも志々雄で、由美は夢主が去ろうとすると引き留めてくれる。
だが志々雄の意思を汲まない訳にいかず、そのままコトに及ばれては身の置き所がない。
合図を送られる際に志々雄から感じる男の香りに夢主は気まずさを感じていた。
苦笑いで会釈を残し、すごすごと立ち去ること数回。
今ではそんな気分の志々雄と目が合うだけで「そろそろお部屋に戻ります」と立ち上がれた。
宗次郎がアジトを離れたこの日、夢主はここへ来てから初めて医者の存在を知った。
志々雄の診察に呼ばれたのだ。もちろん由美も一緒だ。
志々雄は定期的に医者の診察を受けている。
そんなものは要らねぇと突っぱねたい志々雄だが、由美と方治の強い要望で続いていた。
国盗りという目的の為、体の状態を知る必要がある。
診察には宗次郎や方治ですら同席しない。志々雄の体には秘密が多いからだ。
医者は志々雄が座ると慣れた手つきで包帯を解き始めた。
不安そうに由美が見つめている。時折り、夢主を横目に入れていた。
「志々雄様、夢主さんは確かに私も信頼してるけど、でもいくら何でも……ボウヤや方治さんだって来ないのに」
医者が外した包帯を傍の金属の器に重ねていく。
露わになった志々雄の腕は、初めて見る夢主には刺激が強く目を逸らしてしまった。
「いいんだよ、こいつはお見通しだ。そうだろ」
お見通しとは……由美は夢主の謎の知識に首を傾げた。
自分だけが知る秘密を夢主も知っていると言うのか、戸惑いを覚える。
由美は夢主に気を許し、一緒にお喋りを楽しむ間柄だ。
女として愛されているのは自分だけ、それも感じている。
しかし志々雄が夢主に執着する理由が分からなければ不安も生まれる。
「志々雄様が仰るなら……」
「ごめんなさい由美さん……やっぱり私、失礼します」
「いいからいろよ、俺の体のこと、お前も知っておけ。いや、知っているんだろう」
夢主は気を使って退出しようとするが、志々雄は含み笑いで呼び止めた。
由美が不安げに見つめる中、言ってみろと誘うように志々雄の表情が動く。
「ん~……」
遠くから聞こえる自分を呼ぶ声。
ふわふわした優しい声が自分を探している。
眠りの中にいた夢主は薄っすらと意識を取り戻した。
「……ん……」
「夢主さん、大丈夫ですか」
目の前で微笑む青年。
ここはどこだろう……ぼんやり考えるうち、現実を思い出した。
「……宗次郎!あっ、どうしてっ」
「どうしてって……もうすぐお昼ですよ」
「そっか……お昼寝してたんだ」
「朝ご飯の後一度もお見かけしないからどうしたのかと思ったら、お昼寝されてたんですね。体の調子でも悪いんですか」
「いえ、ちょっと眠たくて……大丈夫です」
「そうですか、良かった」
宗次郎から聞ける「良かった」の一言が、夢主にはとても大切な言葉に感じられる。
にこりと微笑んだ宗次郎の頭が傾き、いつものように髪がさらりと流れた。
この比叡山アジトに連れて来られて二週間ほどが経つ。
部屋を訪れた宗次郎、昼ご飯の誘いかと思えば、暫しの別れを告げられた。
「ちょっと野暮用でここを離れます」
「野暮用……」
「えぇ。数日で戻りますよ。出来る限り志々雄さんや由美さんから離れないでください」
野暮用、鋼鉄艦煉獄の出航準備。目的は言われずとも分かった。
淋しいと感じてしまうのはおかしいのに、淋しいと感じてしまう。
雑兵達は志々雄に忠実で、客人に手を出そうという輩はいない。
それでも離れるなと言われるのは、緊張が高まっている事を知らせた。
宗次郎から助言を受ける以前から、由美とは日に一度はお喋りに花を咲かせていた。
だが志々雄と由美は二人の時間も過ごす為、四六時中そばにはいられない。
由美を訪ねる建前で志々雄の部屋を訪れては共に過ごし、空気を察して場を離れていた。
「仲睦まじいのは素敵だしちょっと羨ましいけど、変な気分……」
目配せをしてくるのはいつも志々雄で、由美は夢主が去ろうとすると引き留めてくれる。
だが志々雄の意思を汲まない訳にいかず、そのままコトに及ばれては身の置き所がない。
合図を送られる際に志々雄から感じる男の香りに夢主は気まずさを感じていた。
苦笑いで会釈を残し、すごすごと立ち去ること数回。
今ではそんな気分の志々雄と目が合うだけで「そろそろお部屋に戻ります」と立ち上がれた。
宗次郎がアジトを離れたこの日、夢主はここへ来てから初めて医者の存在を知った。
志々雄の診察に呼ばれたのだ。もちろん由美も一緒だ。
志々雄は定期的に医者の診察を受けている。
そんなものは要らねぇと突っぱねたい志々雄だが、由美と方治の強い要望で続いていた。
国盗りという目的の為、体の状態を知る必要がある。
診察には宗次郎や方治ですら同席しない。志々雄の体には秘密が多いからだ。
医者は志々雄が座ると慣れた手つきで包帯を解き始めた。
不安そうに由美が見つめている。時折り、夢主を横目に入れていた。
「志々雄様、夢主さんは確かに私も信頼してるけど、でもいくら何でも……ボウヤや方治さんだって来ないのに」
医者が外した包帯を傍の金属の器に重ねていく。
露わになった志々雄の腕は、初めて見る夢主には刺激が強く目を逸らしてしまった。
「いいんだよ、こいつはお見通しだ。そうだろ」
お見通しとは……由美は夢主の謎の知識に首を傾げた。
自分だけが知る秘密を夢主も知っていると言うのか、戸惑いを覚える。
由美は夢主に気を許し、一緒にお喋りを楽しむ間柄だ。
女として愛されているのは自分だけ、それも感じている。
しかし志々雄が夢主に執着する理由が分からなければ不安も生まれる。
「志々雄様が仰るなら……」
「ごめんなさい由美さん……やっぱり私、失礼します」
「いいからいろよ、俺の体のこと、お前も知っておけ。いや、知っているんだろう」
夢主は気を使って退出しようとするが、志々雄は含み笑いで呼び止めた。
由美が不安げに見つめる中、言ってみろと誘うように志々雄の表情が動く。