70.微笑の向かう先
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十本刀ら幹部達にアジトでの特別な決まりはなく、招集が無い限り自由に過ごせる。
由美と宗次郎が志々雄のそばに控えるのも言われたからではない。
「穴蔵生活も続くと退屈よね、はい、ボウヤの番よ」
「ん~……」
将棋を指す二人の傍らで志々雄は一人洋酒を味わっていた。
各地に散らばった十本刀が揃うまで間もなく。今は嵐の前の静けさだ。
「あーー!あと一手で王手だってのに、どうしてアンタって子は!そんな所取ってどうするのよ!」
「えー?あれ、おかしいですね全く気付きませんでしたよ、あははっ!でも教えてくれてありがとうございます。はい、王手です」
「っ!!!」
しまった……
そんな顔で由美が強張るのも志々雄には面白い。
愉快な二人を見るうち、もう一人の面白い存在がふと浮かぶ。
「宗次郎、アイツも暇してるだろうから遊んでやれよ」
「アイツ?あぁ夢主さんですね!確かにずっとお一人で退屈かもしれません」
宗次郎はおもむろに駒を集め、将棋盤を抱えて部屋を飛び出していった。
王手直後に勝負が流れた。由美は負けずに済んだが、安堵するより呆気に取られていた。
「ちょっとボウヤ!全く、あの子小さい体でよくあんな重い物を抱えられるわね」
「散々米俵で鍛えられたんだろ」
「そうね……」
「それに遊びと言っても俺が言ったのは将棋じゃねぇんだけどな」
「もう志々雄様」
米問屋で酷使されていたのは二人が知るところ。
志々雄の言葉が由美の胸の奥をチクリと刺し、その棘を抜く冗談は小さな咎めを受けた。
己の前で本音を貫ける存在が志々雄には心地良い。
「アイツもいい歳だぜ、そろそろ知ってもいい頃だろ。何ならお前が教えてやればいい」
「何を言うんですか志々雄様ったら!」
「お前の体でって訳じゃねぇよ、いい相手がいるじゃねぇか」
「駄目よ、坊やはまだそういうのに興味ないわ、無理強いしては駄目よ。これでも吉原一の花魁だったのよ、色事に関しては志々雄様に負けないつもりですから」
「ハハッ、そうかい。俺も散々遊んだが、まぁ男相手はお前の方が優れているかもな」
由美の誇りを掛けた言葉に志々雄も珍しく意見を引いた。
折角感情を欠いた特別な修羅、要らぬ刺激は不要。
だが興味もある。もし色恋を知ったらどう変わる。変わらず修羅を貫けるのか。
「宗にはまだ、早いわ……」
夢主の身と可愛い弟分を案じる由美の呟きに志々雄は何も応えなかった。
宗次郎はあっという間に目的の部屋の前に立っていた。
「夢主さぁん、ちょっと扉を開けていただけますか」
息も切らさず笑顔で呼びかける。
抱える台を床に置く発想は無かった。
「宗次郎……はい」
扉越しの朗らかな声。
夢主が用心深く戸を開けると、立派な将棋盤を抱える宗次郎が笑っていた。
普段は丸腰、身の危険を感じるものは何も無い。
由美と宗次郎が志々雄のそばに控えるのも言われたからではない。
「穴蔵生活も続くと退屈よね、はい、ボウヤの番よ」
「ん~……」
将棋を指す二人の傍らで志々雄は一人洋酒を味わっていた。
各地に散らばった十本刀が揃うまで間もなく。今は嵐の前の静けさだ。
「あーー!あと一手で王手だってのに、どうしてアンタって子は!そんな所取ってどうするのよ!」
「えー?あれ、おかしいですね全く気付きませんでしたよ、あははっ!でも教えてくれてありがとうございます。はい、王手です」
「っ!!!」
しまった……
そんな顔で由美が強張るのも志々雄には面白い。
愉快な二人を見るうち、もう一人の面白い存在がふと浮かぶ。
「宗次郎、アイツも暇してるだろうから遊んでやれよ」
「アイツ?あぁ夢主さんですね!確かにずっとお一人で退屈かもしれません」
宗次郎はおもむろに駒を集め、将棋盤を抱えて部屋を飛び出していった。
王手直後に勝負が流れた。由美は負けずに済んだが、安堵するより呆気に取られていた。
「ちょっとボウヤ!全く、あの子小さい体でよくあんな重い物を抱えられるわね」
「散々米俵で鍛えられたんだろ」
「そうね……」
「それに遊びと言っても俺が言ったのは将棋じゃねぇんだけどな」
「もう志々雄様」
米問屋で酷使されていたのは二人が知るところ。
志々雄の言葉が由美の胸の奥をチクリと刺し、その棘を抜く冗談は小さな咎めを受けた。
己の前で本音を貫ける存在が志々雄には心地良い。
「アイツもいい歳だぜ、そろそろ知ってもいい頃だろ。何ならお前が教えてやればいい」
「何を言うんですか志々雄様ったら!」
「お前の体でって訳じゃねぇよ、いい相手がいるじゃねぇか」
「駄目よ、坊やはまだそういうのに興味ないわ、無理強いしては駄目よ。これでも吉原一の花魁だったのよ、色事に関しては志々雄様に負けないつもりですから」
「ハハッ、そうかい。俺も散々遊んだが、まぁ男相手はお前の方が優れているかもな」
由美の誇りを掛けた言葉に志々雄も珍しく意見を引いた。
折角感情を欠いた特別な修羅、要らぬ刺激は不要。
だが興味もある。もし色恋を知ったらどう変わる。変わらず修羅を貫けるのか。
「宗にはまだ、早いわ……」
夢主の身と可愛い弟分を案じる由美の呟きに志々雄は何も応えなかった。
宗次郎はあっという間に目的の部屋の前に立っていた。
「夢主さぁん、ちょっと扉を開けていただけますか」
息も切らさず笑顔で呼びかける。
抱える台を床に置く発想は無かった。
「宗次郎……はい」
扉越しの朗らかな声。
夢主が用心深く戸を開けると、立派な将棋盤を抱える宗次郎が笑っていた。
普段は丸腰、身の危険を感じるものは何も無い。