69.世話人
夢主名前設定
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比叡山中腹に作られた志々雄一派アジトでの穴蔵生活。
穴蔵とは言え内部は常に灯りで照らされ、空気の流れも作られている。
驚くほど管理された近代的な空間だ。
ここで始まる夢主の生活。
捕らわれの身だが扱いは客人。世話役の男が食事を運び、厠と言えば自由に出歩けた。
外の様子は分からないが部屋に置かれた時計が時を教えてくれる。
ここへ来て初めての夜、寝つけるか不安な気持ちでベッドに腰掛けた。
軽く沈んで戻される体。久しぶりの感覚だ。
指触りの良いシーツがとても懐かしい。
心地よい感触……そう感じてしまい、夢主は首を振った。
部屋の明かりを消す気になれず眺めてしまう。
夢主がぼんやり過ごす部屋の外では、張り詰めた空気が流れていた。
扉の前で直槍を手に番をする世話役の男。その男の前にアジトの主が立っていた。
体は明らかに志々雄の方が小さいが、遥かに強大な気で相手を圧倒している。
男は震える体を懸命に隠し、槍を離してしまわないよう必死だ。
「お前、俺の客人を無碍に扱ったそうだな」
「そっそのような事は御座いませぬ!」
男が思い当たるのは志々雄の世話役、夜伽の由美が共にいた時の事だけ。
たった一言、中の女を雌と小馬鹿にしただけだ。
恐ろしさを堪え、信じてくださいと目を合わせる。しかし己を睨む盟主の目は不満の色に満ちていた。
「俺に嘘を吐くのか」
「う、嘘など決して!!」
脂汗を幾つも額に浮かべ釈明する男。
みっともない姿だ。だが志々雄はフンと笑い、まぁいいと呟いた。
「ここはもういい。鍛練場へ行け」
「たっ、鍛練場……ですか」
「さっさと行け、ここで死にたいか」
「はっ!!」
男は槍を持ったまま走り出した。
乱れ切った精神が体の動きを狂わせ、ぎこちない走りで廊下を去っていく。
「俺が行くまで待ってろよ」
男の姿が消えた廊下の先に言葉を投げる。
ククッと喉を鳴らし、志々雄は愉しそうに扉に向き直った。
中には大人しく過ごす客人。
寝屋で共寝した由美の情報では抵抗する気は皆無。
「賢いぜ」
戸を開くと、今にも眠らんとする夢主が音に反応して跳び上がった。
反動でベッドが揺れている。
「そんなに驚かなくてもいいだろう。あぁノックを忘れたか、次は気を付けるぜ」
ノックを忘れた者が由美に怒鳴られる場面を何度か目撃してきた。雑兵はもちろん、宗次郎ですら今では躾されてノックを忘れない。
すべきだったなと素直に認める意外な態度に、夢主は黙って頷くのがやっとだ。
「落ち着いて話すのは初めてだな。いや、ゆっくり話すのはあの日以来か」
またも黙ったまま頷く夢主、目の前にやって来た志々雄が小さな顎を掴んで強引に顔を上げさせた。
愉しそうだった志々雄の顔に歪みが生じる。
「声ぐらい聞かせろよ、そんなに俺が怖いか。何も取って食おうってんじゃないんだぜ」
「は……はい」
「喋れるじゃねぇか、良かったぜ。このまま声が出ねぇんなら無理矢理お前の声を聞いてたぜ、例えばあの時みたいによ」
「っ」
顎の手が離れ、肩に置かれた。同時に体が引き寄せられ、熱い息が首筋を焦らす。
真っ赤に顔を染めて夢主が驚くと、志々雄は笑いながら体を解放した。
「ハハハッ!しねぇよ、面白れぇな、して欲しかったか、あの時味わったお前の首の味は覚えてるがな」
己の唇を舐める志々雄の仕草で、夢主の体の芯は熱を帯びたように震えた。首筋にじりじりと妙な感覚が走る。
昔、京の茶屋で過敏な首筋を舌が這った遠い感触が蘇った。
「お前分かってんだろ、これでも俺は由美を裏切らねぇつもりだ」
女はもう抱き飽きた。志々雄は笑った。
「由美もお前を気に入ったようだ。話し相手になってやれ」
「は、はい……」
そんな優しい言葉も紡げるの、夢主はまたも驚いて頷いた。
強張る夢主の隣で志々雄が腰を下ろし、ベッドが小さく揺れる。
手を伸ばせば届く距離で包帯に囲まれた目がニヤリと笑った。
穴蔵とは言え内部は常に灯りで照らされ、空気の流れも作られている。
驚くほど管理された近代的な空間だ。
ここで始まる夢主の生活。
捕らわれの身だが扱いは客人。世話役の男が食事を運び、厠と言えば自由に出歩けた。
外の様子は分からないが部屋に置かれた時計が時を教えてくれる。
ここへ来て初めての夜、寝つけるか不安な気持ちでベッドに腰掛けた。
軽く沈んで戻される体。久しぶりの感覚だ。
指触りの良いシーツがとても懐かしい。
心地よい感触……そう感じてしまい、夢主は首を振った。
部屋の明かりを消す気になれず眺めてしまう。
夢主がぼんやり過ごす部屋の外では、張り詰めた空気が流れていた。
扉の前で直槍を手に番をする世話役の男。その男の前にアジトの主が立っていた。
体は明らかに志々雄の方が小さいが、遥かに強大な気で相手を圧倒している。
男は震える体を懸命に隠し、槍を離してしまわないよう必死だ。
「お前、俺の客人を無碍に扱ったそうだな」
「そっそのような事は御座いませぬ!」
男が思い当たるのは志々雄の世話役、夜伽の由美が共にいた時の事だけ。
たった一言、中の女を雌と小馬鹿にしただけだ。
恐ろしさを堪え、信じてくださいと目を合わせる。しかし己を睨む盟主の目は不満の色に満ちていた。
「俺に嘘を吐くのか」
「う、嘘など決して!!」
脂汗を幾つも額に浮かべ釈明する男。
みっともない姿だ。だが志々雄はフンと笑い、まぁいいと呟いた。
「ここはもういい。鍛練場へ行け」
「たっ、鍛練場……ですか」
「さっさと行け、ここで死にたいか」
「はっ!!」
男は槍を持ったまま走り出した。
乱れ切った精神が体の動きを狂わせ、ぎこちない走りで廊下を去っていく。
「俺が行くまで待ってろよ」
男の姿が消えた廊下の先に言葉を投げる。
ククッと喉を鳴らし、志々雄は愉しそうに扉に向き直った。
中には大人しく過ごす客人。
寝屋で共寝した由美の情報では抵抗する気は皆無。
「賢いぜ」
戸を開くと、今にも眠らんとする夢主が音に反応して跳び上がった。
反動でベッドが揺れている。
「そんなに驚かなくてもいいだろう。あぁノックを忘れたか、次は気を付けるぜ」
ノックを忘れた者が由美に怒鳴られる場面を何度か目撃してきた。雑兵はもちろん、宗次郎ですら今では躾されてノックを忘れない。
すべきだったなと素直に認める意外な態度に、夢主は黙って頷くのがやっとだ。
「落ち着いて話すのは初めてだな。いや、ゆっくり話すのはあの日以来か」
またも黙ったまま頷く夢主、目の前にやって来た志々雄が小さな顎を掴んで強引に顔を上げさせた。
愉しそうだった志々雄の顔に歪みが生じる。
「声ぐらい聞かせろよ、そんなに俺が怖いか。何も取って食おうってんじゃないんだぜ」
「は……はい」
「喋れるじゃねぇか、良かったぜ。このまま声が出ねぇんなら無理矢理お前の声を聞いてたぜ、例えばあの時みたいによ」
「っ」
顎の手が離れ、肩に置かれた。同時に体が引き寄せられ、熱い息が首筋を焦らす。
真っ赤に顔を染めて夢主が驚くと、志々雄は笑いながら体を解放した。
「ハハハッ!しねぇよ、面白れぇな、して欲しかったか、あの時味わったお前の首の味は覚えてるがな」
己の唇を舐める志々雄の仕草で、夢主の体の芯は熱を帯びたように震えた。首筋にじりじりと妙な感覚が走る。
昔、京の茶屋で過敏な首筋を舌が這った遠い感触が蘇った。
「お前分かってんだろ、これでも俺は由美を裏切らねぇつもりだ」
女はもう抱き飽きた。志々雄は笑った。
「由美もお前を気に入ったようだ。話し相手になってやれ」
「は、はい……」
そんな優しい言葉も紡げるの、夢主はまたも驚いて頷いた。
強張る夢主の隣で志々雄が腰を下ろし、ベッドが小さく揺れる。
手を伸ばせば届く距離で包帯に囲まれた目がニヤリと笑った。