67.強く
夢主名前設定
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左之助が中山道を歩み始めた日、薫と弥彦もまた京都を目指し立ち上がっていた。
見知った人々が次々と京都を目指す。
動き始めた時に、夢主は不安を覚えると当時に胸の高鳴りも隠せずにいた。
見聞きした物語が繰り広げられるのだ。
激しくぶつかり命を落とす者、逸らし続けてきた現実に目を向ける者、痛みを知ることで優しさを取り戻す者。
多くの者がそれぞれの命運に立ち向かう。
これから沢山の血が流れて沢山の人が死ぬ。
その中に斎藤もいる。
そばで見届け、共に闘う薫や弥彦が羨ましくないといえば嘘になる。
それでも自分の役目をしっかり果たそうと夢主は気持ちを新たにした。
「一さんが安心して戻って来れるように、私もしっかりしなきゃ」
……ね、一緒に頑張ろう……
夢主は無意識に腹に手を添え、語りかけていた。
朝方、夢主は浄閑寺の住職らに挨拶をして寺をあとにした。
何度か遊び相手をしたあかりとかがりが淋しそうだ。だが手習いや学業をこなす忙しさで、この淋しさもすぐに和らぐだろう。
沖田もまた顔を出すはず。だがその肝心の沖田の顔がここには無い。
前向きな気持ちで寺を出た夢主がひとつだけ抱える不安だった。
「総司さんどこ行っちゃったんだろ……まだ吉原にいるのかな」
こんな時に遊び耽る人とは思えない。先に屋敷へ戻っているのか、それとも吉原で問題が起きて居続けているのか。
女一人では立ち入ることが出来ない廓。
夢主は仕方がなしに寺の者へ言伝を残した。
その頃、沖田は吉原ではなく警視庁の中にいた。
門をくぐって外に出た時には日が沈みかけていた。
長い拘束をされていた。
何かを感じて建物を見上げ、数分前まで己がいた部屋を探す。
建物の端、天井まで届きそうな高い窓、そこに垂れるいかにも値が張りそうな舶来品の窓掛け。門の外からは見えなかった。
予想だにしなかった。川路利良の使いの警官が吉原に現れ、有無を言わさず連行されたのだ。
警官は私服姿、間近で聞かされた言葉に従わざるを得なかった。
「沖田総司、警視庁まで一緒に来い。断れば身投げ寺に火を放つ」
それから丸三日間、警視庁の一室に軟禁された。
「はぁ、やれやれです。長かった……夢主ちゃんが気掛かりだ」
馴染の寺に預けた。
火を放つと脅したぐらいだ、付近に数人の警官が控えたに違いない。その点では志々雄一派襲撃の心配はない。
もし奇襲を受けていれば警官も無事では済まず、警視庁に伝わったはず。
以前、夢主と歩く傍ら感じた気配、それは斎藤が手配した護衛ではなく、川路が手配した監視の男達だった。
解放された帰り道、沖田はこの三日間を思い返さずにいられなかった。
自らの屋敷を離れ吉原に身を隠し、時折夢主が隠れる浄閑寺を覗いた。
そろそろ志々雄の刺客が東京を離れ、夢主を連れて屋敷へ戻れると考えたある夕刻、楼主の慌てる声が聞こえてきた。
「困りますお客様、勝手に揚がられましては」
次々部屋の戸を開く不躾な音と妓の悲鳴が聞こえる。
騒ぎに顔を出して目的が己であると分かり、大人しく従ったのだ。
世話になる見世にも大切な寺にも迷惑は掛けられない。
狼狽える楼主に「大丈夫です。落ち着いたらまた顔を見せますね」と笑顔を見せて、沖田は妓楼を去った。
見知った人々が次々と京都を目指す。
動き始めた時に、夢主は不安を覚えると当時に胸の高鳴りも隠せずにいた。
見聞きした物語が繰り広げられるのだ。
激しくぶつかり命を落とす者、逸らし続けてきた現実に目を向ける者、痛みを知ることで優しさを取り戻す者。
多くの者がそれぞれの命運に立ち向かう。
これから沢山の血が流れて沢山の人が死ぬ。
その中に斎藤もいる。
そばで見届け、共に闘う薫や弥彦が羨ましくないといえば嘘になる。
それでも自分の役目をしっかり果たそうと夢主は気持ちを新たにした。
「一さんが安心して戻って来れるように、私もしっかりしなきゃ」
……ね、一緒に頑張ろう……
夢主は無意識に腹に手を添え、語りかけていた。
朝方、夢主は浄閑寺の住職らに挨拶をして寺をあとにした。
何度か遊び相手をしたあかりとかがりが淋しそうだ。だが手習いや学業をこなす忙しさで、この淋しさもすぐに和らぐだろう。
沖田もまた顔を出すはず。だがその肝心の沖田の顔がここには無い。
前向きな気持ちで寺を出た夢主がひとつだけ抱える不安だった。
「総司さんどこ行っちゃったんだろ……まだ吉原にいるのかな」
こんな時に遊び耽る人とは思えない。先に屋敷へ戻っているのか、それとも吉原で問題が起きて居続けているのか。
女一人では立ち入ることが出来ない廓。
夢主は仕方がなしに寺の者へ言伝を残した。
その頃、沖田は吉原ではなく警視庁の中にいた。
門をくぐって外に出た時には日が沈みかけていた。
長い拘束をされていた。
何かを感じて建物を見上げ、数分前まで己がいた部屋を探す。
建物の端、天井まで届きそうな高い窓、そこに垂れるいかにも値が張りそうな舶来品の窓掛け。門の外からは見えなかった。
予想だにしなかった。川路利良の使いの警官が吉原に現れ、有無を言わさず連行されたのだ。
警官は私服姿、間近で聞かされた言葉に従わざるを得なかった。
「沖田総司、警視庁まで一緒に来い。断れば身投げ寺に火を放つ」
それから丸三日間、警視庁の一室に軟禁された。
「はぁ、やれやれです。長かった……夢主ちゃんが気掛かりだ」
馴染の寺に預けた。
火を放つと脅したぐらいだ、付近に数人の警官が控えたに違いない。その点では志々雄一派襲撃の心配はない。
もし奇襲を受けていれば警官も無事では済まず、警視庁に伝わったはず。
以前、夢主と歩く傍ら感じた気配、それは斎藤が手配した護衛ではなく、川路が手配した監視の男達だった。
解放された帰り道、沖田はこの三日間を思い返さずにいられなかった。
自らの屋敷を離れ吉原に身を隠し、時折夢主が隠れる浄閑寺を覗いた。
そろそろ志々雄の刺客が東京を離れ、夢主を連れて屋敷へ戻れると考えたある夕刻、楼主の慌てる声が聞こえてきた。
「困りますお客様、勝手に揚がられましては」
次々部屋の戸を開く不躾な音と妓の悲鳴が聞こえる。
騒ぎに顔を出して目的が己であると分かり、大人しく従ったのだ。
世話になる見世にも大切な寺にも迷惑は掛けられない。
狼狽える楼主に「大丈夫です。落ち着いたらまた顔を見せますね」と笑顔を見せて、沖田は妓楼を去った。