17.詫びの印に
夢主名前設定
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澄んだ空を秋の雲が流れてゆく。
季節により雲の形が変わるのは何とも不思議で面白いものだ。
沖田屋敷の広い庭で、夢主は箒を手に落ち葉を集めながら空を見上げていた。
「綺麗になりましたね、ありがとうございます」
「総司さん」
庭の隅に落ち葉の山を作り上げ、庭先へ戻ってきた夢主に、道着姿の沖田が声を掛けた。
清々しい汗が額から流れ落ちている。
「お稽古はもう終わったんですか」
今日は門弟への稽古ではなく、朝から一人稽古に励んでいた。涼しい季節に体を動かすのは気持ちよく、相手がいなくとも腹が減るまで止まらないのだ。
庭の掃除を任せっぱなしにしては悪いと顔を出したのだが、夢主は稽古に打ち込む沖田の姿が好きなので少しも気に掛けてはいない。
気が済むまで打ち込んでくれたらと、一人庭を掃除をしていた。
「今日から斎藤さんがお留守なんですよね」
「はい。総司さんにもちゃんとお話しくださったんですね」
庭先にいる夢主を縁側から見下ろすと、控えめに抜かれた衣紋から白い後ろ首が良く見える。
沖田は覗いている肌をついつい目に入れた。
「えぇ、今朝行きがけに……斎藤さんは分かりやすいなぁ……」
後ろ首についた赤い痕は本人に見えはしない。
何かに呆れた声に夢主が振り返り、斎藤が唇で残した痕は沖田から見えなくなった。
「総司さん?」
「あははっ、いいえ。何でもありませんよ」
後ろ首に情事の名残があるとは言わない方が良いだろう。
沖田は苦笑いで首を伸ばし、もう一度密かに情事の痕を目に入れた。
この日、沖田が気になったのは妻から離れる斎藤が残した痕だけではない。ちらちらと夢主が自分に向ける視線だ。
「夢主ちゃん、どうしましたか」
自分でも意識せず沖田を見ていた夢主は、顔を覗かれて初めてある物を気に掛けていると自覚した。
「いつだったか僕の刀の話をしてから、よく見ていますよね。何か理由でもあるのでしょうか」
菊一文字則宗の話をして以来、夢主の目が腰の刀で止まる回数が多くなった。
単に刀に興味があるのかと思ったがそうではない様子。
先日、団子屋で再びその話題が出たからか、より一層意識して見える。
「この刀ですか」
沖田が庭に下りて腰から刀を鞘ごと抜いて見せるが、夢主は慌てて違いますと首を振った。
「すみません、気になっていたのはもう一つの刀なんです」
「菊一文字則宗ですか」
「はい……大切な一振りなのですよね」
「えぇ、それはもちろん」
刀を腰に戻しながら、にこりと微笑んだ。
敬愛する会津候からの賜り物。
得体の知れない浪人、田舎侍と指を差された自分達の働きと存在が認められた証明とも言える。
「もし……誰かに奪われるような事があったら、総司さんは……」
「もちろん取り返しますよ」
「命に……代えてもですか」
「えっ」
確かに大切な一振り。
武士の誇りである刀。命に代えても守り抜く、それは至極当然の考えだろう。
「そうですね、僕にとって掛け替えの無い刀ですから」
「そうですか……」
「でもね、それが例えば夢主ちゃんの命に代わるのならば僕は深追いしませんよ」
普段は明るく元気な沖田の声が、今は静かに深く響いた。
真面目な思い。夢主は驚いて真剣な眼差しを見上げた。
「僕自身の命ならば構わないけれど」
「総司さんっ!」
「あははっ、そうなるでしょう、だから僕は自分の命を捨てるつもりもありませんよ」
言葉を失って見つめる夢主を揶揄って笑い、沖田はいつもの声色に戻してお道化た。
季節により雲の形が変わるのは何とも不思議で面白いものだ。
沖田屋敷の広い庭で、夢主は箒を手に落ち葉を集めながら空を見上げていた。
「綺麗になりましたね、ありがとうございます」
「総司さん」
庭の隅に落ち葉の山を作り上げ、庭先へ戻ってきた夢主に、道着姿の沖田が声を掛けた。
清々しい汗が額から流れ落ちている。
「お稽古はもう終わったんですか」
今日は門弟への稽古ではなく、朝から一人稽古に励んでいた。涼しい季節に体を動かすのは気持ちよく、相手がいなくとも腹が減るまで止まらないのだ。
庭の掃除を任せっぱなしにしては悪いと顔を出したのだが、夢主は稽古に打ち込む沖田の姿が好きなので少しも気に掛けてはいない。
気が済むまで打ち込んでくれたらと、一人庭を掃除をしていた。
「今日から斎藤さんがお留守なんですよね」
「はい。総司さんにもちゃんとお話しくださったんですね」
庭先にいる夢主を縁側から見下ろすと、控えめに抜かれた衣紋から白い後ろ首が良く見える。
沖田は覗いている肌をついつい目に入れた。
「えぇ、今朝行きがけに……斎藤さんは分かりやすいなぁ……」
後ろ首についた赤い痕は本人に見えはしない。
何かに呆れた声に夢主が振り返り、斎藤が唇で残した痕は沖田から見えなくなった。
「総司さん?」
「あははっ、いいえ。何でもありませんよ」
後ろ首に情事の名残があるとは言わない方が良いだろう。
沖田は苦笑いで首を伸ばし、もう一度密かに情事の痕を目に入れた。
この日、沖田が気になったのは妻から離れる斎藤が残した痕だけではない。ちらちらと夢主が自分に向ける視線だ。
「夢主ちゃん、どうしましたか」
自分でも意識せず沖田を見ていた夢主は、顔を覗かれて初めてある物を気に掛けていると自覚した。
「いつだったか僕の刀の話をしてから、よく見ていますよね。何か理由でもあるのでしょうか」
菊一文字則宗の話をして以来、夢主の目が腰の刀で止まる回数が多くなった。
単に刀に興味があるのかと思ったがそうではない様子。
先日、団子屋で再びその話題が出たからか、より一層意識して見える。
「この刀ですか」
沖田が庭に下りて腰から刀を鞘ごと抜いて見せるが、夢主は慌てて違いますと首を振った。
「すみません、気になっていたのはもう一つの刀なんです」
「菊一文字則宗ですか」
「はい……大切な一振りなのですよね」
「えぇ、それはもちろん」
刀を腰に戻しながら、にこりと微笑んだ。
敬愛する会津候からの賜り物。
得体の知れない浪人、田舎侍と指を差された自分達の働きと存在が認められた証明とも言える。
「もし……誰かに奪われるような事があったら、総司さんは……」
「もちろん取り返しますよ」
「命に……代えてもですか」
「えっ」
確かに大切な一振り。
武士の誇りである刀。命に代えても守り抜く、それは至極当然の考えだろう。
「そうですね、僕にとって掛け替えの無い刀ですから」
「そうですか……」
「でもね、それが例えば夢主ちゃんの命に代わるのならば僕は深追いしませんよ」
普段は明るく元気な沖田の声が、今は静かに深く響いた。
真面目な思い。夢主は驚いて真剣な眼差しを見上げた。
「僕自身の命ならば構わないけれど」
「総司さんっ!」
「あははっ、そうなるでしょう、だから僕は自分の命を捨てるつもりもありませんよ」
言葉を失って見つめる夢主を揶揄って笑い、沖田はいつもの声色に戻してお道化た。