【明】明治の貴方へ、メリークリスマス
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明治五年。
「太陰暦を廃し太陽暦御頒行相成候」、いわゆる旧暦が廃止され、西暦が採用された。
夢主は詔書が公示されても大して驚かなかった。承知の事実だったのだろう。変化を楽しんで受け入れて、いい機会だと俺に暦にまつわる様々を語って聞かせた。
その一つがクリスマスだ。
ある夜、それは夢主曰く、クリスマスイヴの夜。酷く冷える夜だった。
仕事から帰った俺は、いつもと違う景色を見た。
雨戸は閉じられ、障子も閉められた座敷。そこまでは普段と変わらないが、床の間に柊が活けられている。
夢主は花は好きだが、わざわざ切らなくても楽しめると、花などを活けない。
それが、この夜は違った。
衝立には何故か緋色の襦袢が掛けられている。干している訳でもなさそうだ。
夢主が愛用するのは白い襦袢。これは、誘っているのか。いや、夢主に限ってそれは無いだろう。
いつもと異なる我が家の景色。あちこちに赤や緑の物が置かれている。幾つか違いを見つけて眺めていると、台所から夢主が戻ってきた。
「これは」
部屋の中を視線で差すと、夢主は嬉しそうに「うふふ」と笑った。
「クリスマスっぽく飾ってみたんです。柊と、赤や緑の飾り。なんか、赤いものが見つからなくて。緋色の襦袢はちょっと厭らしかったですね」
「いや、面白いじゃないか」
厭らしくて面白い。
冗談半分に後ろから抱きしめると、意外にも、夢主は嫌がらなかった。
「驚いたな。この襦袢は本当に誘いの合図なのか」
「違いますよ、でも、その……クリスマスは、家族でお祝いしたり、恋人達が寄り添う季節……なんて、私の勝手な思い込みなんですけど」
夢主は一瞬俺の顔を見て、恥ずかしそうに笑った。
阿呆が。そんな愛おしい顔をするんじゃない。夢主の体をさするように手を滑らせると、夢主が手を重ねてきた。これは、そういう気があると捉えていいんだな。
「俺達は恋仲を越えているだろう」
「は、一さん……」
「夢主」
名前を呼ぶと、夢主は腕の中でそっと回り、俺を見上げた。この上なく幸せそうな顔で、俺を見つめながら小さく頷いた。
あぁ、夢主が教えてくれた言葉を思い出した。こんな時に言うんだろうな。
俺は夢主の額に口づけるように、唇で触れた。
「夢主、メリークリスマス」
「は……はいっ、メリークリスマス、ですっ」
驚いて、嬉しそうに言い返す夢主の声が上ずっている。
「夢主」
「はいっ」
「愛してる」
「っ……はいっ」
抱きしめたまま囁くと、夢主は俺に伝わるほど顔を熱く火照らせた。
そして俯き、俺に聞こえるか聞こえないかの小さな声で、こう言った。
──愛してます……私も……
聞こえんな。揶揄ってやりたいが、今夜はやめておこう。
「知っているさ」
そう囁くと、夢主は顔を上げて、俺に口づけを求めた。
時代の変化も悪くない。また一つ、夢主との至極の夜が増えるんだからな。
俺が焦して夢主を見つめていると、耐えかねた夢主が閉じた瞼を薄らと開いた。
待っていたのさ、その甘い色に染まった瞳を。どうしてお前はいつも瞳を潤ませるんだ。
目が合ったのを確かめてから、俺は夢主に口づけた。
酷く冷える夜、外は音もなく、静かに雪が降り始めていた。
「太陰暦を廃し太陽暦御頒行相成候」、いわゆる旧暦が廃止され、西暦が採用された。
夢主は詔書が公示されても大して驚かなかった。承知の事実だったのだろう。変化を楽しんで受け入れて、いい機会だと俺に暦にまつわる様々を語って聞かせた。
その一つがクリスマスだ。
ある夜、それは夢主曰く、クリスマスイヴの夜。酷く冷える夜だった。
仕事から帰った俺は、いつもと違う景色を見た。
雨戸は閉じられ、障子も閉められた座敷。そこまでは普段と変わらないが、床の間に柊が活けられている。
夢主は花は好きだが、わざわざ切らなくても楽しめると、花などを活けない。
それが、この夜は違った。
衝立には何故か緋色の襦袢が掛けられている。干している訳でもなさそうだ。
夢主が愛用するのは白い襦袢。これは、誘っているのか。いや、夢主に限ってそれは無いだろう。
いつもと異なる我が家の景色。あちこちに赤や緑の物が置かれている。幾つか違いを見つけて眺めていると、台所から夢主が戻ってきた。
「これは」
部屋の中を視線で差すと、夢主は嬉しそうに「うふふ」と笑った。
「クリスマスっぽく飾ってみたんです。柊と、赤や緑の飾り。なんか、赤いものが見つからなくて。緋色の襦袢はちょっと厭らしかったですね」
「いや、面白いじゃないか」
厭らしくて面白い。
冗談半分に後ろから抱きしめると、意外にも、夢主は嫌がらなかった。
「驚いたな。この襦袢は本当に誘いの合図なのか」
「違いますよ、でも、その……クリスマスは、家族でお祝いしたり、恋人達が寄り添う季節……なんて、私の勝手な思い込みなんですけど」
夢主は一瞬俺の顔を見て、恥ずかしそうに笑った。
阿呆が。そんな愛おしい顔をするんじゃない。夢主の体をさするように手を滑らせると、夢主が手を重ねてきた。これは、そういう気があると捉えていいんだな。
「俺達は恋仲を越えているだろう」
「は、一さん……」
「夢主」
名前を呼ぶと、夢主は腕の中でそっと回り、俺を見上げた。この上なく幸せそうな顔で、俺を見つめながら小さく頷いた。
あぁ、夢主が教えてくれた言葉を思い出した。こんな時に言うんだろうな。
俺は夢主の額に口づけるように、唇で触れた。
「夢主、メリークリスマス」
「は……はいっ、メリークリスマス、ですっ」
驚いて、嬉しそうに言い返す夢主の声が上ずっている。
「夢主」
「はいっ」
「愛してる」
「っ……はいっ」
抱きしめたまま囁くと、夢主は俺に伝わるほど顔を熱く火照らせた。
そして俯き、俺に聞こえるか聞こえないかの小さな声で、こう言った。
──愛してます……私も……
聞こえんな。揶揄ってやりたいが、今夜はやめておこう。
「知っているさ」
そう囁くと、夢主は顔を上げて、俺に口づけを求めた。
時代の変化も悪くない。また一つ、夢主との至極の夜が増えるんだからな。
俺が焦して夢主を見つめていると、耐えかねた夢主が閉じた瞼を薄らと開いた。
待っていたのさ、その甘い色に染まった瞳を。どうしてお前はいつも瞳を潤ませるんだ。
目が合ったのを確かめてから、俺は夢主に口づけた。
酷く冷える夜、外は音もなく、静かに雪が降り始めていた。