奇怪戦線惑星ニョロ(未完)
自室で飼っているペットに餌をやっていたら、スカウターに盟友からの通信が入った。
『ヤバいぞ斬り込み隊長!ベジータさまの命が、今度こそヤバいぞー!』
言われたリクームはビックリして、宇宙ヒル用の餌を落っことしてしまった。
「そ、その声は、諜報部隊の下っ端の……、名前なんだっけ?」
『【ハグレスパイM係】だ!早く俺のコードネームを覚えろー!』
「あ、そうだった」
『ベジータさまが…!ベジータさまが今度こそ死んでしまわれるかもしれん!』
「な?なんだって?少し落ち着いてよ、盟友ちゃん」
リクームはスカウターに手をかざし、通信主をなだめてやった。
リクームは、特殊性癖者であり、ベジータを常日頃からストーキングし、偏愛していた。
そして少年兵のベジータに、同じく恋慕する者は少なくなかった。
彼らには共通して『少年愛』の趣味があった。
他にも少年兵が居ない訳では無いが、サイヤの特性ゆえか成長スピードが遅く、少年の姿を長く留めているベジータ王子は、彼らにとってはいつまでも鑑賞を楽しめる特別な男児だったのだ。
見目が良く、頭が良く、生意気で、その鋭い眼光で周りの戦闘員を威圧しているような強烈な有り様は、『少年様信仰』を持つクズ共のハートをたちまちに射抜いてしまった。
リクームは、唯一、そのベジータと性的接触を持った勇気ある特攻野郎であり、他のクズ共からは『命知らずの英雄』扱いをされて尊敬を集めてた。
リクームが立ち上げた【ベジっ子視姦同盟】に連名する者は、今や50名を超えている。
『うちの隊長が、やらかしやがった!次のベジータさまの遠征先の情報を、大幅に改竄して報告を上げやがったんだ!』
「なんだって?」
『敵性生物の数も戦闘力数値も、実際の100分の1で報告しやがった……さすがのベジータさまでも、サイヤ部隊のみであの星を制圧する事は、絶対に不可能だ!』
「な?なんで、偉い諜報隊長さんが、そんなイカれた調査報告を上げるのよ!?」
……聞けば、その諜報隊長は、ベジータに対して個人的な怨恨があるのだという。
長年仕えている自分よりも、ベジータの方がフリーザから大切にされている事が気に入らず、腹いせに、度々ベジータを陥れようと画策するのだが、知恵者のベジータには罠が通じず、それが積もり積もって怨恨化してしまったという哀れなオヤジであった。
彼は長年の諜報任務で神経をすり減らした為か洒落にならない心身症を患っており、この先は任務不可という事で近々退役が決まっていた。
諜報という、軍の機密を扱う職務の性質上、惑星フリーザから解放される事はなく、退役当日はフリーザから永久勲章を授けられ、その名誉と共にサクッと安楽死処理される、という軍人らしい末路が用意されていた。
『あのオッさん、独りで逝くのはゴメンだと……。どうせ死ぬならベジータさまも道連れにしたいと……』
「嘘の惑星調査報告で、ベジータちゃんをハメて戦死させるつもりなのかい!?」
『そういう事だ。この情報を掴んでるのは諜報の中では俺だけだが、……俺みたいな下っ端が真実を訴えた所で聞いては貰えん。諜報隊長の発言力は絶大だからな……』
「な、なんてこったい!」
『ううっ……ベジータさま……嫌だあ……死なせたくない……』
「ベ、ベジータちゃんが死んじゃったら、オレ達の貴重なズリネタが無くなっちゃうじゃないのーー!!」
一大事である。
リクームが率いる盟友50名あまり、このイカれた変態共は総じて、クソな軍隊生活を絶望的な気分で生きている低級軍人ばかりであった。彼らはベジータという素晴らしいズリネタが有るからこそ、その日1日をやっと生き延びているようなクズである。
つまりベジータが死ねば、盟友達の生き甲斐も無くなってしまう訳で、同盟内で自殺者が続出する事は目に見えていた。
現に、情報を寄越してきたこの諜報隊員は早くも『とりあえずロープは買った……俺もベジータさまの後を追うよ……ベジータさま無しでこの先どーやって生きてったらいいのか分からんわ、はははは』などと乾いた笑いを漏らしている。
「しっかりするんだ盟友ちゃん!はやまるんじゃないぞッ!」
リクームは慌てて叱咤した。
「オレ達、毎晩語り合った仲じゃないか!そして、まだまだ語り足りないよねって!ベジータちゃんの尻尾の毛の本数を数え切るまでは戦死する訳にはいかないよねって!ゆうべ笑い合ったばかりじゃないかーー!」
『ううう、ベジータさまぁ〜〜』
『オイ、話は聞いたぞ、今の話はマジなのか?』
別の盟友からの通信が入った。
リクームはハッと目を見張った。
「その声は……、死体処理班の、」
『コードネーム【百転びゼロ起き】だ、俺の声を覚えていてくれるとは光栄だぜ」
「そりゃあ、キミのベジータ情報は同盟内ではニッチな需要があるからね……」
『ふふ。ベジータが侵略した後の、死体の破壊具合からヤツの性的鬱憤を予想してレポートできるのは俺ぐらいだからな。ベジータが死ぬってのは……本当なのか?』
淡々とした声の中には、静かな死の響きが混じっていた。死体処理班の彼もまた、深く絶望しているようだった。
『ならば俺は……、ベジータの死骸の一部をなんとしてでも回収し、それを50等分にしてお前らに分け与えて我が偉業とし、溶鉱炉に身を投げてクソな人生を終えようと思う』
「早まっちゃダメだってば!まだベジータちゃんが死ぬと決まった訳じゃ……」
『なんて事だよーー!いつかテメーらと、あのクソガキを集団レイプすんのが夢だったのによぉーー!』
また別の者から通信が入った。
同盟内でも過激派の部類の者である。
リクームは慌てて宥めすかした。
「落ち着いて!キミは、コードネーム……なんだっけ!」
『コードネーム【ベジ沼ズブ雄】だ。こうなったら死罪覚悟で官僚棟へ行って襲ってやる!ベジータの野郎を強姦してやるぜ!』
「そ、そんな事は不可能だよ!だってキミ、戦闘力たった40のゴミじゃーーん!?」
『うるッせーんだよーー!ベジータが死ぬ前に!血反吐吐かせながらグチャグチャにガン掘りしてやんなくちゃ!俺は一体……!なんの為に生きのびてきたんだか……』
『やめたまえよベジ沼くん!』
また新しい声が加わった。
リクームのスカウターは、ガヤで一杯になってきた。話を聞きつけた盟友達が集まってきたのだ。
『愛くるしいベジータさまを穢すなど、言葉だけであっても我々正統派が許さないぞ!』
『出やがったなエセベジ野郎〜〜』
『早くその危険な考えを改めたまえ!我らと共に、もっと静かにベジータさまを信仰したまえ!』
『うるせーーんだよ、性奴のケツすら掘れねー腰抜けめ!俺は本気でベジータを愛してんだ!愛してるからこそケツ掘りながら半殺しにして俺を刻みつけてーんじゃねーか!お前らみてーに見てるだけで満足してるような薄っぺらなファンとは違うんだよ!』
『あ、相変わらず、なんて酷い事を!そんなの愛じゃないぞ!それに本当にそんな事をしてしまったらキミも軍法に触れて死罪になるのだぞ!死の付き纏うような破滅は愛とは呼べない!愛とは希望だ!我らのように、遠くからベジータさまを眺め、清く崇拝する姿こそが真のベジータ愛なのだーー!』
『綺麗事抜かしてんじゃねーぞ!そんな事言いながらテメェら正統派のやってる儀式はなんなんだ!?ベジータにボコられる妄想で、どんだけザーメン出せるか競ってるらしいじゃねーか!キメーんだよテメェらマゾ軍団!俺に話しかけるなクソが!』
『なんだと!人の信仰をバカにするヤツは地獄に堕としてやるぞ!』
「ま、待って待って、喧嘩は良くないよ!」
リクームは双方を落ちつかせる為に説得しなければならなかった。盟友50名ともなると色んなヤツが居て、派閥が生まれてしまうのは必然であった。
同盟内には大きく2つの派閥があった。
すなわち、
・生意気なベジータさまに虐められたいM系派閥
・生意気なベジータを虐めて犯したいS系派閥
この二大勢力があり、彼らは敵対関係となっており、常に言い争いが絶えなかったのだ。
この諍いを丸く収められるのは、リクームただ一人であった。
マゾとサド、どちらの気持ちも分かってしまう特殊性癖者リクーム。
彼は双方に対する偽りなき共感の態度と、桁外れの戦闘力とフレンドリーな性格でもって、同盟内の平和を保つ役目を見事に果たしていたのである。
「両方よく聞いて!オレがなんとかして、ベジータちゃんを助けてみせる!だから皆、喧嘩しないで!早まって死のうなんて考えちゃダメだ!」
鶴の一声だった。
やかましいガヤがピタリと止まり、しばしの沈黙がおとずれた。やがて、正統派の一人が神妙な声で訊ねてきた。
『ベジータさまを助けるって?そんな事が出来るのか?』
「大丈夫!任せといて!正統派の諸君は絶対に集団自殺なんか画策しないようにね!……それから、【ベジ沼】くんも約束して!絶対にベジータちゃんには近づかないように!怪我しちゃうだけだぞ!」
『……』
言われた過激派は黙り込んでいる。
リクームには、彼の焦りがよく分かる。どうしようもない程の凌辱欲を日々耐え抜く苦しみを、誰よりも分かっている。だからリクームは、精一杯慈しみを込めて彼に語りかけたのだ。
「ベジータちゃんは絶対に死なせないよ。ちゃんと生かして、これからもたっぷり視姦出来るようにしてあげるから!」
『……』
「ねえ【ベジ沼】くん、オレと約束した合言葉を覚えているかい?」
『……ああ』
「言ってみようか」
『……』
「覚悟をキメて、さあ言ってごらんよ」
長い沈黙があった。
やがて、過激派の男は観念したのか、低く知性を宿した声で静かに答えた。
『合言葉は、〈イエスベジータ、ノータッチ〉』
「そう!〈イエスベジータ、ノータッチ〉!」
『……』
「命あってのファン活動だよね?一緒に長生きして、ベジータちゃんをもっともっと視姦していこうじゃないか」
静かな溜息がスカウターから聞こえた。
『スマン、斬り込み隊長。……つい頭に血が上っちまったわ……』
「いいんだよ、キミの荒ぶる気持ちはわかるぞ!ベジータちゃんをブチ犯したい気持ちは、よーっく分かる!それも深い深い愛ゆえの事だって、オレには分かってるからね?」
『……、ふうッ……、くううッ……』
「泣くんじゃないよ〜〜情けない〜〜、バリタチのドS野郎のクセに〜〜」
『ううっ……おおおお……』
過激派は、派手に男泣きをした。
リクームも涙を浮かべながら、うんうんと相槌を打ってやった。この友情的な場面に口を挟む者は誰も居なかった。正統派も黙って大人しくしていた。
「ベジータちゃんを好きな気持ちは、みんな同じなんだ。オレ達はみんな仲間なんだ。だから仲良くしよう!」
『うむ、その通りだ。今は争ってる場合じゃない』
『ありがとう斬り込み隊長』
『これからも宜しくな、斬り込み隊長』
『頼む……どうかベジータを……助けてやってくれ』
『ベジータさまあああ』
『お前という変態が居てくれて、本当に良かった』
『ベジータに接触するのか?だったら唾か尻尾の毛を土産に持ってきてくれや』
『頼むぞクソムシ』
しばらくの間、盟友の激励に真剣に応答してから、リクームはスカウターを切った。
この通信は特殊な電波を使用したもので、同盟に所属する者だけが授受できるようになっている。
外部に漏れる事は無い。
そして同盟の連中は、その特殊性癖ゆえにとても口が堅かった。派閥同士で言い争う事はあっても、やはり根幹の部分では団結心を失わないのだ。
この同盟のクソ共を、リクームは大切に思っていた。みんな大切な友達だったし、誰一人悲しませたくはなかったのだ。
リクームは、水槽で飼っている愛らしいペットを見つめながら、決意を固めた。
なんとしてでもベジータの戦死を阻止しなければならない。
「盟友ちゃん達の為にも、オレが頑張らなくっちゃ」
リクームは拳を握りしめて、戦士然として呟いた。
そして再びスカウターの通信機能を起動し、最初の通告者【ハグレスパイM係】にアクセスしてベジータの次の侵略地の情報を聞き取り、パステル色のメモ帳に、力強い筆跡で書き記していった。
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