Spin-off 「Fantasy」

いつもやさしくしてくれて、ありがとう。
だいすきだよ、またあそびにきてね。
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Spin-off 「Fantasy」
─── Short story:You are my Sunshine.
番外編 「幻想」
───短篇:あなたはわたしの太陽
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おうちの時計の長い方の針が、ちくたく、ちくたく、とちょっとずつ動いて、いちばん上の『12』のところに近づいていく。短い方の針も、もうすこしで『7』の上にくるところだ。
わたしはこたつの中でぬくぬくにあったまった足をぱたぱたさせながらふたつの数字が仲良しになるのをずっとずっと待っていた。あともうすこしなのに、がんばれがんばれって心の中で応援しても針はぜんぜん動いてくれない。このままじゃ明日になっちゃうかもしれないと、ものすごく胸がドキドキした。
きょうはとってもとくべつな日。いち年の最後の日なんだって。
ほいくえんはずっと前におやすみになった。パパもなん日か前に『しごとおさめ』になって、それからずっとおうちでわたしと遊んでくれる。パパがおうちにいると、ママもなんだか嬉しそうなの。だからわたし、最近すっごくしあわせなんだ。
でもね、きょうがとくべつな理由はそれだけじゃないの。
どうしてだと思う?
それはね、朝ごはんを食べてるとき、ママが「お外が暗くなって『12』と『7』がお友達になったらあずくんが来るよ」って教えてくれたから!
「───ただいま。」
玄関のほうからパパの声が聞こえた。さっきお外で車の音がしたから、わたしはきっとパパが帰ってきたんだとおもってこたつから飛び出しておむかえにいく。……あずが来るときは、いつもパパの車に乗ってくるの。あずは車持ってないから、友達のパパが乗せてきてあげるんだって。
テレビがある大きなお部屋のドアを開けて玄関に走っていく。
おくつを脱ぐところの電気がついていた。そこで、パパが脱いだじぶんのおくつをきれいにそろえている。そして、パパのうしろにあずが立っていた。
「あずー!」
わたしは嬉しくなって、おててを振りながら大きなこえであずの名前をよんだ。そうしたらあずもわたしに気づいてにこっと優しく笑ってくれる。
「ハル、久しぶり。」
「ひさしぶり!あのね、あずが来るのずーっと待ってたよ!」
「ハハッ、そうか。ありがとな。」
あずの大きな手がのびてきて、ママにむすんでもらったリボンがほどけないくらいのつよさであたまをなでてくれる。……パパよりちいさいけど、いつもわたしのことをよしよししたり、だっこしてくれるから、パパとママのつぎにだいすきなんだ!
「ハル。アズマさん中に連れてってやれ。」
「わかったー!あず、こっちだよ!」
「はいよ。」
今度はわたしがあずのおててをつかんで、おうちの中までごあんないしてあげた。きょうのお外はすっごくさむいってママが言ってた。あずのおてても氷みたいにつめたかったから、はやくこたつであっためてあげなくちゃ。
「ねぇねぇ。あずも、しごとおさめ?」
「いや、オレはまだだな。」
「じゃあ、いつおさまるの?」
「アズマの仕事は納まらない仕事なんだ。」
「えー!そんなおしごとあるんだ!ハルのほいくえんはおさまったのに!」
「そうか。無事に納まってよかったな。」
「あずもほいくえんでおしごとしたら?」
「ハハッ。そいつはいい考えだ。」
あずがおめめをギュッとほそくしてまた笑う。
あずはいつもにこにこ笑顔で、絵本のなかのおひさまみたい。
かみのけもきんいろでキラキラしてて、おめめも冬のお空みたいなきれいなみずいろなの。外国のえいがに出てくる男のひとみたいだねってほめてあげたら「さんきゅー」って笑ってた。
それとね、左のおめめの上にけがしたあとがあるんだ。
なんだか痛そうだなっておもって心配してたんだけど、あずは「悪いライオンと戦って、ちょっとパンチされただけだ。もう痛くねぇよ」っていって、ちょっとだけさわらせてくれた。
……つよいおまわりさんのあずにけがさせるなんて、すごく悪いライオンさんだ。もし会ったら、ハルがこらしめてあげなきゃ。
「ママ!あずがきたよ!」
お部屋にもどってすぐにママをよぶと、おだいどころで晩ごはんを作っていたママがこっちをむいてわたしとあずを見た。さくらのお花とおなじいろのエプロンをつけて、お嬢さまみたいににっこり笑ってお客さまのあずくんにごあいさつする。
「おかえり、アズマくん。お仕事お疲れさま。」
「おう。年の瀬に邪魔して悪いな。」
「もう、なに言ってるの?私達が来てって呼んだんだよ?」
「ハハッ。それもそうか。」
「ゆっくりしていって。もうすぐ夕飯出来るから。」
「ありがとう。……ああ、そう言や、」
わたしのおててをにぎったまま、あずがおだいどころの方に歩いて行く。どうしたんだろうと思ってじっと見あげていたら、あずのもうひとつの方のおててが四角くて白いはこをもっていた。
「これ、あとで食えよ。」
「…えっ、なに?」
「この前話してたろ。駅の近くに新しくケーキ屋が出来たって。」
「もしかして、わざわざ買ってきてくれたの?」
「待ち合わせ場所からすぐだったからな。」
「嬉しい…!ずっと気になってたけど、なかなか行けなくて…。」
「なにが美味いかわかんねぇから、取り敢えず良さげなもんを一個ずつ買っといた。好きなの選べ。」
「あずくん…本当にありがとう。いつも色々買ってきてくれて。」
「飯の礼だ。気にすんな。」
ママはお嬢さまからお姫さまになって、あずからプレゼントしてもらった白いはこをだいじそうにギュッとした。あずもママを見てまたおひさまみたいに優しく笑う。
ふたりをずっと見ていたわたしは、つないだままのおててを引っ張ってあずに話しかけた。
「なにがはいってるの?」
「ん? ケーキとか、甘いやつがいろいろ。」
「ほんと?ハルのもある?」
「そりゃ勿論。」
「わー!さいこうだね!」
「お褒めに預かり光栄です、ハルお嬢様。」
あずがしつじみたいにぺこりとおじぎをする。
あずはおおきくていつもはハルの頭のずっとずっとうえにお顔があるんだけど、いまみたいにおじぎしたり、だっこしたり、おひざをついてしゃがんでくれることもあるから、ちゃんとおめめを見てお話ができるの。ほいくえんの先生みたいで優しいなっておもう。あずが先生になったら、もっとほいくえんが楽しくなるのにな。
「……アズマくん、」
なかよくお話してるわたしとあずのことをとなりで見てたママがおててに持ったままの白いはこをれいぞうこに入れようとして……思い出したみたいに声をあげる。
こっちをふりかえったママのお顔は、しんけんだった。いけないことしたハルを『だめだよ』ってしかるときみたいに。
「ケーキ、アズマくんの分もあるよね?」
ママからのしつもんを聞いたあずのまゆげがカタカナのハの形になった。ママをおこらせちゃったときのパパのお顔にちょっとだけにてる。……あずはなにかいけないことをしたのかな?
あずがママにおこられちゃったらどうしようってしんぱいになって、おててをギュッてしてあげたらあずもやさしくにぎりかえしてくれた。だいじょうぶだよっていってくれてる気がした。
「全部で十二個入ってる。」
「私達だけでそんなに沢山食べられないよ。」
「日を分けて食えばいい。」
「生ものなんだから早く食べないと、傷んじゃう。」
「数日くらいなら大丈夫だろ。」
「だめ。…せっかく美味しいものなのに、勿体ないでしょ?」
「……そうだな。」
ママとあずがなんのお話をしてるのか、よくわかんなかった。
だけど、ママもあずもなんだかいつもよりさびしそうなお顔をしてるように見えて、ちかくにふたりがいるのにわたしまでかなしい気持ちになってくる。
ママにはずっとお姫さまでいてほしい。
あずにもずっとおひさまでいてほしい。
ふたりがキラキラ、ニコニコしてると、ハルもうれしいから。
「……ハル。」
後ろからパパの声がした。
パパはおうち用のおようふくにきがえていた。このまえおみせでえらんであげたパーカーをきてる。三人でおそろいの、ピンクいろのやつ。むねのところに、かわいいハートのもようがあるの。
パパがわたしをひょいっと抱っこした。つないでたあずのおててがはなれてしまって、あずがさびしくないかなっておもったとき、
あったかくておっきなおててが頭をよしよししてくれた。
「ケーキ、アズマさんと食いたいか?」
「たべたい。」
「じゃあ、飯のあと四人で食うか。一人三つずつな。」
「うん。ケーキ、あずとえらぶ!」
ほいくえんの先生がいってた。ごはんも、おやつも、だいすきなお友達といっしょに食べたらもっともっとおいしくなるんだって。
あずはわたしのお友達。だから、夜ごはんもケーキもいっしょにたべるの。なかよしなんだから、あずだけなかまはずれはだめ。
あずにいじわるする悪いライオンは、ぜったいゆるさないの。
「あず、ケーキいっしょにたべよ?」
パパにだっこされたままあずにおててをのばす。
あずがおうちに帰るとき、いつもこうやってあくしゅするんだ。おててをにぎってわたしが「またきてね。」っておねがいしたら、あずは「約束な。」っていって笑ってくれる。おまわりさんのおしごとがいそがしいからまいにちはむりだけど、ぜったいあいにきてくれる。きょうみたいにおかしのおみやげをもってきてくれるし、おたんじょうびのときはかわいいおもちゃもくれた。パパとママにないしょでおこづかいをくれることもある。
そしたらまたギュッてあくしゅして「元気でな」っていうの。
あくしゅは、おまじないなんだ。
わたしとあずのだいじなやくそくがちゃんとまもられますようにっていう、まほうのおまじない。あくしゅしたら、あずがなんでもかなえてくれるんだって。
ハルのことも。ママのことも、パパのことも。
三人ともまもるんだって、あずはそういってくれた。
だからね、わたしもやくそくするの。
あずとずっといっしょだよって。ずっとお友達だよって。
「………ああ。一緒に、な。」
あずのおててとギュッとつよくあくしゅをした。
さっきまでくもって雨がふりそうだったおめめが、ちょっとだけお天気になったみたいにみえた。
あずはやっぱり、おひさまみたいだね。
だって、ハルたちのこと、いつもとおくからみまもってくれてるから。
「あず、だいすきだよ。」
ハルもいつか、あずがさびしいときにまもってあげられるつよいライオンになれたらいいな。
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一年のさいごの日は、あなたもいっしょに。
来年も再来年も、ずっとずっと、わたしたちと。
Spin-off 「Fantasy」
─── Short story:You are my Sunshine.
番外編 「幻想」
───短篇:あなたはわたしの太陽
- END -
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See you next year!
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