夏油傑
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『うーん...』
私は目を糸のように細め、眉を寄せて唸っていた。
目の前のショーケースには、色とりどりの商品が並んでいる。
平日の真昼間。
アクセサリー店に急かす店員はおらず、私は自由に店内を吟味させてもらっていた。
『せっかく給料も入ったことだし、良いものをあげたいんだけどなぁ』
ふぅと息をつきながら、私は背伸びをする。ずっと前屈みだったからか、背骨がポキポキと鳴った。
私が動いたのに気づいたのか、店員が微笑みかけてくる。
『熱心にお探しですね、プレゼントですか?』
『えぇ、恋人に。どれも素敵なので迷ってしまって』
私が苦笑しながら言うと、店員はきらりと目を輝かせた。
恋人と言うフレーズに反応したのか、若干身を乗り出してあるショーケースを勧めてくる。
『でしたら、こちらは拝見されましたか?』
店員に案内されるまま、そのショーケースを覗き見た。
磨き上げられた天然石が、光を反射して星のように輝いている。
『これは?』
『お好みの石をお選びいただき、アクセサリーに加工させて頂くサービスです。ピアスやイヤリング、ネックレス、ブレスレットやアンクレットなど...ご希望に合わせてお作りできます』
『へぇ...どの石を選んでも良いんですか?』
『このショーケース内のものなら。宜しければ、ぜひお手に取ってご覧ください』
店員はそう言うと、ショーケースを開いた。中から幾つもの綺麗な石を取り出し、トレーの上に並べていく。一通りの作業を終えると、私の手前までトレーを差し出してくれた。
『お気に召すものはありそうですか?』
『そうですね...』
私は顎に手をあて、ひとつひつとつ手に取って一考し始める。
と、ある一つの石に目がついた。店員もそれに気づいたのか、静かに口を開く。
『お目が高いですね。珍しく質の良いものを入荷出来まして...何にも染まらない無二の輝きをもつ石です』
『いいですね、〇〇にぴったりだ』
私は『コレにします』と言うと、アクセサリーの加工を依頼した。仕上がりには数日かかるらしく、1週間後に取りに来ると約束をする。
『メッセージカードはおつけしますか?』
『...お願いします』
支払いを済ませて店を出ると、既に日が傾き始めていた。
1週間後。
『傑、この後ゲーセン行かね?』
任務の真っ只中で、悟は空中から私に話しかけてくる。
まるで蚊でも払うかのように、彼は呪霊を仕留めていた。
私は私で地上の呪霊を取り込みつつ、苦笑してみせる。
『悪い、今日は用事があって』
『あ、お前また〇〇とデートだろ!? たまには俺優先しろよ!』
『えぇ...君ってそんなキャラだった?』
私がすっとぼけると、悟はギャンギャンと喚き出した。
『この前のマリカの決着、いつ付けるんだよ! ずっと勝ち逃げしやがって!』
『悟は運転下手だからなぁ、今日やったとしても私が勝つよ』
『ンだと!?』
『そうやってすぐキレるんだから』
悟が本気で腹を立てるのが可笑しくて、私は笑ってしまう。
すると悟は頬を膨らませて、呪霊を一掃して更地となった地に瞬時に降りてきた。
私の目の前まで来ると、目尻を上げて仁王立ちする。
『今日は〇〇の日なんだな? どうしても』
『いや? 〇〇は別任務で今日は居ないよ』
『は? じゃあお前の用事って何なんだよ』
逃がさねぇぞ、と、言わんばかりの悟の視線に、私はやれやれと肩をすくめた。
観念したように唇を開き、頬を掻く。
『この前給料が入っただろ? だから〇〇に、何かあげたくて。ついでに私の気持ちも伝わったら、嬉しいなぁなんて』
『ははーん? そんで今日、プレゼント選びに行くってことか』
なぜか勝ち誇った笑顔の悟に、私は左右に首を振った。
『いや、プレゼント選びは終わってるよ。今日は取りに行って...夜にでも、時間があれば渡すつもり』
『な、なるほどな! 俺もそう思ってた!』
アテが外れて恥ずかしいのか、悟はそう言うとウンウンと何度か頷いた。それから私を少しの間だけ見つめて、口端を吊り上げる。
彼は私の肩をポン、と叩いて、ふわりと空に飛んだ。
『今日のところは勘弁してやるよ。七海からかって遊んでっから、混ざりたくなったら来いよ〜』
『あ、悟! 勝手に空から帰ったらーーーーって、もう行っちゃったか』
また怒られるぞ、と言う言葉を飲み込んで、私は補助監督に電話をした。
それから補助監督に、車であの店まで送ってもらった。
無事に商品を受け取って高専に戻ると、〇〇の後ろ姿が校門に見える。
『〇〇、随分早い帰りだね?』
駆け寄って声をかけると、彼女は私に気づいて振り返った。
無言で私に抱きつき、そして離れる。
「傑もおかえり。怪我しなかった?」
『私は平気だよ、悟もいたしね。...〇〇は?』
「あー...ちょっと切った」
『え、どこを?』
「太もものところ。結構パックリ行っちゃったから、私だけ先に帰ってきたの」
私の顔が徐々に青ざめた。
彼女は少しだけスカートを捲し上げ、破れたストッキングを私に見せる。
ストッキングは赤く染まっていたが、素肌に大きな外傷はなかった。
「硝子に治してもらったから、もう何とも無いよ。今から現場戻って、事後処理だけしてくる」
『補助監督に任せて、今日はゆっくり休んだほうがいい。言いにくかったら、私から伝えておくよ』
「ありがとう。でも気持ちだけもらっとくね、どうせ報告書も書かなきゃいけないし」
『だけど...』
「ふふ、傑は優しいなぁ」
彼女は朗らかに笑って見せた。つま先で立って背伸びをすると、私の頬に口付ける。
「帰ってきたら甘やかしてね? その為に頑張る」
そう言って〇〇は私から離れようとする。
直後、私は条件反射で彼女の腕を掴んでいた。
『待って。2、3分だけ時間をくれないか』
「?」
『目を瞑ってくれる?』
私の発言に不思議に思いながらも、〇〇は素直に従う。
私は彼女の首に手を回すと、細い金色のチェーンをつけてあげた。ペンダントトップには、あの日選んだモリオンが輝きを放っている。
『いいよ、目を開けて』
「わ...何コレ、綺麗」
『和名だと黒水晶だったかな...〇〇にどうしても身につけて欲しくて』
「ふふ、傑の瞳みたい。すごく嬉しい!」
『喜んでもらえてよかった。時間があったら"石言葉"を調べてみて』
「石言葉? 花言葉的なやつ?」
『そう。時間があったらでいいよ』
「今教えて? 知りたい!」
『...どうしても?』
「どうしても!」
好奇心旺盛な子供のように、〇〇は目を光らせた。
私はしょうがないなぁと言うと、彼女の耳元に唇を寄せる。
『"貴方を守る"だよ。君が何処にいても、必ず助けに行くからね』
私はそう言って、耳、頬、額の順に口付けた。
最後に両手で〇〇の頬を包むと、唇に深くキスを落とす。
『実際どうかは分からないけど、魔除けの効果もあるらしいよ。肌身離さず付けていてね』
「う、うん! じゃぁ現場に戻ります!」
『なるべく早く帰ってくるんだよ』
彼女は耳まで真っ赤にしながら、照れくさそうに頷いた。
名残惜しく思いながらも、私は彼女を送り出す。
彼女の背を見送りながら、ある決意を胸にした。
スマホを取り出してある人に電話をかけると、ことの次第を伝える。
『...じゃあ、よろしくお願いしますね』
「で、なんで傑がここにいるの?」
『この前言わなかったっけ、何処にいても助けるって』
「そうじゃないでしょ、これは」
『ごめん、風が強くてよく聞こえないな』
私は〇〇の言葉が聞こえないフリをして、任務に当たる。
〇〇は不満そうだが、"特級術師"に逆らえる人はそう居ない。
私は自分の持つ権力をフル活用して、〇〇の任務に同行し得る立場を得ていた。
おかげでアレ以来、〇〇は一つの怪我も、かすり傷もしていない。
「コレじゃ私、強くなれないじゃん!」
私の腕に抱かれながら、彼女は尚も不満を吐露した。
文句を言う姿も実に可愛くて、私は本日何度目かのキスをする。
『強くなる代わりに、なって欲しいモノがあるんだけど』
「えぇ...一応聞いとくけど、何?」
『私のお嫁さん』
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