及川徹
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『あ、〇〇〜!』
「げ。」
土曜日の夜。
自主練がてらロードワークをしていると、制服姿の〇〇を見つけた。彼女は大きな袋を持っていて、少し重そうにしている。
『休みなのに制服? 赤点の補習か何か?』
「あー...委員会の仕事でちょっと。透は?」
『自主練で走ってたとこ』
「あっそ、じゃ」
〇〇はそれだけ言うと、そっけなくその場を離れようとした。
けれども俺に手を取られ、不服そうに足を止める。
『〇〇って、何の委員会だっけ?』
「...図書。今日は本棚整理してたの」
『こんな時間まで? お疲れ様』
「...で、何」
『暗いし1人じゃ危ないでしょ? 送ってくよ』
「いいよ別に、1人で」
彼女はあたりを見渡して、ぽつりとそう呟いた。
いつもなら笑って『じゃあ一緒に帰ろ』とか言ってくれるのに、なんか今日はおかしい。
俺はそう思って、少しだけ腰をかがめた。〇〇の顔を覗き込んで、真面目に問いを投げる。
『...なんかあった?』
「何もないけど...あんまり絡まないでくんないかな、外で」
『どうして?』
「...」
『〇〇、何があったの?』
〇〇が黙ってしまった。俺は胸の中のざわつきを感じて、さらに詰め寄ろうとする。
『え、何かあるなら言って! 俺直すーー』
『うるせぇクソ川』
『えっ!? 岩ちゃん!?』
『〇〇は俺が諸事情で送ってくから、お前は松川に構ってもらえ』
『はぁ!? 嫌なんだけど!?』
状況がわからずアタフタしていると、俺の後ろから松川がニュッと出てきた。彼は俺から〇〇を剥がし、俺の腕を掴んで引っ張る。
そのまま引きずられるように反対方向へ連れて行かれてしまい、あっという間に〇〇の姿は見えなくなった。
『もぅまっつん、どういうこと!? 俺なんかした!?』
『ん? そうね...及川がラーメン奢ってくれたら口が軽くなるかも』
『そんなんでいいなら全然奢るけど!?』
『やっぱりダメ、〇〇に怒られるから』
『ドユコト!?』
『そのうち分かるよ、今はそっとしときな』
『えぇ...』
松川にぽんぽんと背を叩かれ、有耶無耶にされたまま俺は帰宅した。ひとまずシャワーを浴びて着替えると、ベッドに身を投げだしてスマホを見る。
誰からも連絡はない。もちろん〇〇からも。
『なんなんだろ...い、虐められたとかかな。俺が人気すぎて、女子が取り合い...で、〇〇が巻き込まれた、とか!?』
"それはヤバい"と起き上がり、不安から〇〇に電話する。
数コール鳴った後、〇〇は電話に出てくれた。少し疲れているのか、ため息混じりに言葉を並べる。
「もしもし? こんな時間になに?」
『あ、あのさ...もしかして虐められてるとか?』
「はぁ?」
『及川サンが人気すぎて、〇〇、女子に嫉妬されて虐められてるのかなって。だから今日も帰りが遅かったり、岩ちゃんたちがボディーガードしてる、とか...?』
「っぷ、ははははは!」
電話越しに大爆笑され、俺はポカンと口を開く。
しかしすぐさま気を取り直して、〇〇に詰め寄った。
『だって俺、もうすぐ卒業じゃん!? そしたら海外行っちゃうじゃん!? そしたら〇〇守れるの、俺じゃなくて岩ちゃんとかになっちゃうかもだし...違うの?』
「ははははは...っ」
『ちょっと、及川サン真剣ですよ!?』
「ごめんごめん、ありがとう心配してくれて」
〇〇はひとしきり笑った後、もう仕方ないかと事情の一部をはなしてくれた。
「透って優しいからさ、私が荷物持ってると、代わりに持とうとしてくれるじゃん?」
『そりゃそうでしょ、〇〇可愛いもん』
「ふふ、ありがと。でも今日の荷物は、透にどうしてもまだ渡せないものだったから...慌てて素っ気ない態度取っちゃっただけ。ごめんね」
『じゃあ...本当に、虐められてるとかじゃない?』
「全然! むしろ女子には神扱いされてる」
『神扱い?』
「あの及川徹を落とした恋愛テクニシャン」
『テクニシャン!?』
「そう! 今や恋愛成就のスペシャリストよ、私」
俺の思惑とは別の意味で、〇〇は特別扱いされているらしい。
まぁそれなら良かったとだけ返して、俺はふぅと息をついた。
〇〇はそんな俺に、優しく声をかける。
「明日さ、練習後にちょっと時間もらいたいんだけど。いいかな」
『もちろん! デート? どこ行く?』
「ひとまず部室にいて。絶対出てきちゃだめだからね」
『え、どういうこ...切られちゃった』
俺は電話をかけ直そうと思ったが、踏みとどまってやめた。
何か事情があるみたいなので、これ以上の追求は良くない気がする。
俺はベッドにごろんと横になると、そのまま目を閉じた。
翌日。
いつも通り練習をして、終了時間間際となったころ。
なぜか俺だけ部室に放り込まれた。
『え、マジで何?』
『まぁまぁいいじゃない、UNOでもやりながら待とう』
『まっつん、2人でUNOはキツい。せめてスマブラ』
『うん、ゲーム機がないね』
『ダメじゃん!』
俺の監視役として部室に留まった松川との、不毛なやり取りはこれで十数回目。
そろそろ飽きてきてしまって、俺は冷たい床に大の字になった。そのまま駄々を捏ねるようにして手足をバタバタさせる。
『俺もう無理〜! 〇〇とデートしたい! 何で閉じ込められてんの! どうせなら〇〇と閉じこもりたい!』
『俺と言う存在がありながら...贅沢だな及川』
『まっつんは黙ってて!』
問答無用で松川の言葉を遮ると、ほぼ同時に扉が開いた。
そして〇〇と岩泉の冷ややかな視線が俺に突き刺さる。
『お前...いい歳して恥ずかしくないのか』
『そこは! そこはいつもみたいにクソ川って言うところ! まじで恥ずかしくなってくるじゃん!』
「ごめん透、事実として、とても恥ずかしい」
〇〇に追い打ちをかけられ、俺のメンタルはズタボロになった。
俺は床でゴロリと寝返りを打って、体を小さく丸める。
しくしくとなく真似をすると、岩泉に首根っこを掴まれてしまった。
『とりあえず体育館戻るぞ』
『え、このまま引きずってく気!?』
『嫌なら立て、そして歩け』
『岩ちゃん辛辣すぎ! 優しくして!』
俺がギャンギャン文句を並べて歩いていると、いつもの体育館が見えてきた。けれども扉もカーテンも閉じられていて、中の様子が分からない。
扉の前で〇〇たちと立ち止まると、監督の声が中から響いた。
『今日だけ特別だからな』
「ありがとうございます!」
それに応えたのは〇〇で、彼女は俺の手を取った。外にある非常階段に向かうと、門を開いて中に入る。普段は鍵が閉まっていて使えないはずだが、今日は解錠されていた。
『あれ? 岩ちゃんたちは?』
「あとでくるから! とりあえずきて!」
手を引かれるまま階段を登る。2階部分につくと、ギィと音を立てて扉が開いた。そのまま暗い体育館に入ると、手すりに捕まって2階から1階を見下ろす。
『なーんもみえない!』
『文句しか出ねぇなあいつ、ウンコか』
『岩ちゃん聞こえてるからね!?』
間髪入れずに突っ込んで、俺は〇〇の手をぎゅっと握った。
扉を閉められたせいで、完全な闇が広がっている。
この暗がりで顔は見えないが、俺は〇〇が落ちたら大変だと内心気が気でない。
「お願いしまーす」
俺の気持ちを全く知らない〇〇は、誰かに向かって声を張った。
バチッという音とともに、体育館の床一面が照らされる。
『え...』
体育館の中心敷かれた大きなバレーボール型の布が、俺の視界に飛び込んできた。
そのバレーボール(型の布)は、たくさんの布を集めて作られたものらしい。色も柄もバラバラで、場所によっては縫い合わせが甘そうな部分もあった。
よく目を凝らすと、なにやら文字のようなものもびっしり書かれている気がする。
「せーのっ」
〇〇の言葉を合図に、1階に集まった部員が一斉に息を吸う。
『今までありがとうございました!』
声を合わせて、人生で1番大きなお礼を言われた。
俺は戸惑いながら、〇〇と部員たちを交互に見やる。
「だから言ったでしょ、昨日は渡せなかったって」
『そうだね...これは、渡せないね...っ』
胸の奥から熱いものが込み上げてきて、俺はぐっと拳を握りしめた。今にも涙腺が崩壊しそうで、俺は天を仰ぐ。
ぎゅっと一度目を瞑ってから、俺も大きく息を吸った。
『俺こそ、俺こそありがとう!』
『よし、じゃあ降りてこいクソ川!』
いつも通りの岩ちゃんの言葉に、俺の涙は瞬時にひっこむ。
1階に降りてみんなと合流すると、改めて15メートルほどの大きさの布にびっくりする。
『〇〇さんの発案で、縫い方教えてもらって、俺たちがつくりました!』
ビシッと背を伸ばした金田一が、俺にそう言った。
時間もなかっただろうに、部員全員でやったと言うのか。
目を見開く俺に、国見が言葉を続ける。
『及川さん、もうすぐ海外行くって聞いてたんで...とりあえず頑張ったんすよ』
『ちなみに京谷もちゃんと参加してますよ、今日はいませんが』
『そうなの? 〇〇』
矢巾が何故か得意げに言うので、〇〇に問いかける。〇〇は大きく頷くと、それぞれの布にメッセージも書かれていると教えてくれた。
「メッセージ、今全部読む? 多分夜までかかるとおもうけど」
『帰ったらちゃんと読む。本当にありがとう』
俺は噛み締めるように、改めてお礼を言った。
見知らぬ場所に行くことが、本当は怖くてたまらなかった。
この選択が正しいのかも、間違っているかもわからない。
文字通り『未知』で溢れていて、気を抜けば足元を掬われるかもと不安と闘っていた。
けれど。
揺らいでいた心が固まり、踏み出す勇気が湧いてくる。
試合の時と同じように、振り返ればいつでも仲間がいると教えてくれた。
『俺、絶対に強くなって戻ってくるから』
「うん。透なら出来るよ」
〇〇の言葉に次々と仲間が頷く。
俺は何度目かのお礼を口にして、特大の寄せ書きを胸に抱いた。そして〇〇の肩を抱き寄せた。
それから数日後、俺は卒業式を省略して海外に飛ぶ。
もちろん荷物にあのバレーボールを乗せて。
『何年かかるかわかんないけど、必ず迎えにくるから』
「あ、大丈夫です」
『大丈夫です!?』
キメ顔でカッコよく言ったつもりが、出鼻を挫かれる。
飛行場に見送りにきてくれた〇〇は、ニッと笑って得意げに俺の頬にキスをする。
「私から会いに行くから。透はバレーに集中! 強くなるんでしょ」
『っ...俺の彼女がイケメンすぎる...勝てねぇ...』
「好きでしょ?」
『うん、大好き!』
「わっ」
俺は〇〇を抱き上げ、そのままクルクルと回転した。そのままキスをして大好きと何度も伝える。
『俺、絶対に世界的選手になって〇〇をお嫁さんにするからね』
「ふふ、待ってるよ」
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