第一章
そう思っていた矢先だった。
不意に草を踏み分ける音が聞こえて、ルーティは音の方向に視線を向ける。そこに現れたのは、一人の長身の男。
左目を眼帯で覆っていて、狼の耳と尻尾が生えている。匂いからして、ルーティが知っているような種族の人間ではなかった。
「……まさかね」
ぽつりと呟き、空を見上げる。
あまり見つめては、喰われてしまうかもしれないと警戒したからだ。それほどにその男は強面で、黒いオーラを纏っている。
――大丈夫。僕のパートナーはかっこよくて、優しくて、紳士的なお兄様だから。
心の中で言い聞かせる。
ルーティがそう考えていたのは、入隊が決まってからパートナーの人と携帯のメールでやり取りをしていたからである。
もちろん自称だが、非常に絡みやすい人物だったことに変わりはない。