第八章



それまで頭を垂れて聞いていたスピカは、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は潤み、一筋の涙が頬を伝って。

「馬鹿野郎……っ」

――それは、長年闇に放られてきた彼が、最も欲した言葉だった。

呼応するように右手でルーティの左腕を掴み、スピカは悔しそうに顔を歪めながら。

「本当は……っ本当は、生きたいに決まってるじゃねえか……っ死にたくないに、決まってるじゃねえか……!」

ぽつりぽつりと呟いていたスピカだったが、突如酷い頭痛が襲い、項垂れて。


――そうだ。俺は、本当は……


どくんと鼓動が一度、高鳴ったかと思えばスピカは吐血して。恐らく、“ゼロ”にされたというのに記憶を無理矢理思い出そうとしたことによる、拒否反応か。

頭痛に呻いていたスピカだったが、遂に意識を失ったのかルーティの左腕から右手を離し、体重をかけてしまい。

がくん、とルーティの体が傾いた。
 
 
17/34ページ
スキ