第五章
「スピカの一番古い記憶ってどうなってるの?」
ふと、疑問に思ったルーティは小首を傾げて。スピカは脳裏を探り、思い出す。
「……目の前に、大きな円柱の筒の中で、緑色の怪しげな液体に浸されているタブーがいて、両脇にはマスターとクレイジーが立っている。場所は多分、研究室」
ぽつりぽつりと告げていくスピカだが、頭痛がしたのか小さく呻いては頭を抱えて。
「にぃに!」
咄嗟に声をかけるピチカ。
スピカは眉間に皺を寄せ、痛みを耐え忍びながら引き続き、口を開く。
「いや、違うな……その前に……ああ、そうだ。俺は誰かの家にいて、扉をノックする音が聞こえて、代わりに出たんだ」
ルーティとピチカは顔を見合わせる。
――それは、確かな記憶だった。
忘れもしない十年前のあの日、ルーティの家で遊んでいたその時……誰かが家にやって来たので、スピカが代わりに出たのだ。
そして、スピカは消えてしまった。