第五章



「スピカの一番古い記憶ってどうなってるの?」

ふと、疑問に思ったルーティは小首を傾げて。スピカは脳裏を探り、思い出す。

「……目の前に、大きな円柱の筒の中で、緑色の怪しげな液体に浸されているタブーがいて、両脇にはマスターとクレイジーが立っている。場所は多分、研究室」

ぽつりぽつりと告げていくスピカだが、頭痛がしたのか小さく呻いては頭を抱えて。

「にぃに!」

咄嗟に声をかけるピチカ。

スピカは眉間に皺を寄せ、痛みを耐え忍びながら引き続き、口を開く。

「いや、違うな……その前に……ああ、そうだ。俺は誰かの家にいて、扉をノックする音が聞こえて、代わりに出たんだ」

ルーティとピチカは顔を見合わせる。


――それは、確かな記憶だった。

忘れもしない十年前のあの日、ルーティの家で遊んでいたその時……誰かが家にやって来たので、スピカが代わりに出たのだ。

そして、スピカは消えてしまった。
 
 
21/37ページ
スキ