第二章
元の場所に戻ってくるとダークガノンドロフが食事の支度をしていた。正直な話そんな悠長なことをしている場合でもないがほんの僅かでも隙あらば心を休ませたいこちらの気持ちを汲み取ってくれた結果なのかもしれない──しかし焚き火に木の枝で突いた魚を立てかけて炙っているものかと思いきや飯盒や鍋まで用意してるとなると本格的なキャンプを彷彿とさせるな。
「おう。戻ったか」
器の準備をしていた様子のスピカが振り返る。側にはダークウルフもいた。ダークシャドウの体は特質でスピカ曰くマスターが作った特別なカプセルの中で決まった時間睡眠をとらないと体調を崩してしまうのだそう。ダークゲムヲとダークロボットが居なくなっているのは交代したからだろう──自分が気付かなかっただけで夜間も交代していたのかもしれない。
「まだ、目を覚まさないんだね」
ルーティは心配そうに呟いた。視線の先では相変わらずマスターとクレイジーが眠っている。
「いっそ叩き起こすか」
「り、リーダー」
「冗談だよ」
構わずにいたら本気でやり兼ねない声音で呟くスピカにダークウルフは焦燥を含みながら振り向いたが視線を受けたスピカが息をついて返すと安心したようにひと息。
「そうだ」
ルーティは苦笑いを浮かべていたが思い出したように声を上げてマスターとクレイジーの元へ駆け寄るとハンドタオルを片手に。
「さっきのタオル濡らしてきたんだ。顔の汚れとか拭いてあげようと思って」
「人形じゃねえんだぞ」
ごもっともだがいつ目が覚めるのか分からない彼らをこのままにしておくというのも自分だけ水浴びしてきた後だとますます気が引ける──ルーティはマスターの傍らに膝を付くと白磁の肌に見合わない泥や煤といった目立つ汚れを中心に優しく叩くようにしてタオルで拭った。
要所要所が青痣になっているのがあまりに痛々しく事実を思い知らされる。敵とはいえ神様である彼らに本気で手を上げるなんて──どんな制裁を下されるだろう。二人が目を覚ましたらタダじゃ許してくれないんだろうなぁ……