第二章
「逆らいませんよ」
着替えを終えた頃にダークファルコはようやく真面目な返答をした。
「元々自分たちはそのように造られていませんから」
そういえば。ダークシャドウは偽物集団の名を冠する通りマスターとクレイジーが計画を遂行する上で立ちはだかることになるであろう自分たちX部隊の戦士を容姿も能力も瓜二つになるように精巧にコピーした偽物で──ただひとつ異なるとすれば人間のような思考や感情は持ち合わせず、ただ計画と主たる双子の為に行動を起こす人型兵器なのだった。
意向に背くはずも逆らうはずもなかったのはマスターがわざと思考や感情といった人間らしい性質を組み込まなかったからなのだが──その当時、記憶を失っていたはずのスピカが彼らに外の世界で通ずる言語を教えた際にその過程で感情を芽生えさせてしまったのだ。
マスターとクレイジーにとっては誤算だったが戦闘能力も何も全て時間を掛けて生み出した彼らをそれだけの理由で切り捨てるはずもない。利用、では聞こえが悪いが敬愛するリーダーに手を下されたくないのであれば絶対服従しろと繰り返し言い付けてあるのだ。それはスピカも同じで命令に背けばダークシャドウの何をどうされたものか分からない。
双子の働きかけで彼らの特異な体が保たれ生かされているのは紛れもない事実。意向に背いた時、例えば記憶を消すなど造作もないだろう。
逆らえるはずもない。互いの安寧が約束されるのであれば双子の命令など容易いこと。
如何に不服なものだったとしても。
「さ」
ダークファルコは沈黙を破るように声を出すといつものように笑いかけながら。
「戻りましょうか」