第二章
喜び勇んだまではよかったものの──やっぱり朝方の水浴びは冷たさが体の芯にまで染み込むようで凍えるなあ。それでもこの先散々に追い詰められて水浴びなど悠長なこと言っていられない状況に陥るリスクを考えたらそれこそ彼が言っていた通り何事も今の内なんだろうな。
「ルー君」
ビクッと肩を跳ねて──何もないというのに胸板を隠すように縮こまりながら振り返るとそこにはダークファルコが居た。タオルを腕に掛け佇む彼はどうやら自分待ちであるらしい。
「な、何か」
「警戒なさらずとも取って食いはしませんよ」
ダークファルコはこちらの警戒に反して口元に笑みを湛えながら。
「これでも我々はお行儀がいいので」
どの口が言うのだという突っ込みは呑み込んで頂戴したタオルでさっと水滴を拭い去り元着ていた服の袖に腕を通す。
「本当ですよ」
「疑ってないよ」
「味方である限りはね」
ルーティは思わず着替えの手を止める。
「少なくともリーダーはそのようなこと命じる可能性は万が一にでも有り得ませんが──亜空軍の主将たるあの方々が命じるのであれば」
「逆らおうとはしないんだね」
その質問は、するりと喉の奥からこぼれ落ちるように出た悪気のないものだった。
「ああ。そういえば貴方は今回の件でお偉方に刃向かったが故に肩身の狭い思いを」
「ごめんなさい」
余計なことを触れ回るなといったところか耳の痛い切り返しに思わず謝罪してしまう。
「冗談ですよ」
……とても冗談には聞こえなかったけどなあ。