第二章
「……?」
何の気なしにタブーが虚空を見上げた。その状態が数秒と続いた後に正面に向き直るとタブーは迷わずその背丈に見合わない極彩色の硝子の羽根を一瞬にして展開する。
「つかまえる」
小さく呟いてその足がふわりと地面を離れるとこれからの攻撃を全て悟った。双眸にぼうっと灯をともして周囲の空気が殺気立つ。赤と黒の閃光が否応無しに跳ねて此方の様子を覗き見ていた小動物たちが一目散に逃げ出した。
「お前らは先に行け!」
「、はい!」
マスターとクレイジーをそれぞれ抱きかかえたダークロボットとダークゲムヲはスピカの声に従って駆け出す。程なく打ち出されるであろう波動は紛れもない"OFF波動"だ──波動を受けた対象物を容赦なく零に帰す恐ろしい技。そこまで聞くとまさか人間がその波動を受けた瞬間消滅してしまうのではと錯覚するが実際は違う。中身を掻き出そうとしているような形容し難い感覚に襲われるだけ。だけとは言っても油断した暁には何もかも掻っ攫われるのだろう──記憶も何も全て失って零に帰すように。
「スピカ」
「ああ」
極彩色の硝子の羽根が大きく羽ばたかせるかのような動作をゆっくりと行い改めてその全貌を大きく見せつけるように広げた。やがて赤黒い障壁がタブーの周囲を丸く囲んで膨張する。
なるべく。遠くに逃がす。僕たちは波動の全てではなくとも先ずは一撃をこちらからの攻撃で相殺して後方へ逃げるダークロボットとダークゲムヲに攻撃が届かない様に配慮すればいい。
「──来るぞ!」
打ち出される波紋状の波動にスピカが声を上げるとダークリンクとダークガノンドロフはそれぞれの剣を力強く地面に突き立てた。刹那突き立てられた地面の亀裂から黒が噴き出しやがて巨大な盾を象った。しかし波動は物ともせずに盾を突き破り粉砕してしまう。それで手の内が尽きた筈もなくスピカとルーティは息を揃えて手を突き出し、青と黒の稲妻を──解き放つ。