第一章
「そういえば」
フォックスが切り出した。
「最近、亜空軍の動きが見られないな」
この世界の全てを貶める絶望の未来を取り巻く事件からもう数ヶ月が経過していた。前述した通り諸悪の根源たる放浪の悪魔を葬った亜空軍主将のマスターとクレイジーは依然として次の動きを見せずだんまりを決め込んでいる。
新世界創造計画たる理想郷を作り上げる企みを諦めた筈もない。ただ確かに普通の人間は持ち得ない神力の限りを尽くした彼らはどうしても疲労が拭えないようだった。確かに正義を担う者として悪なる連中が動きを見せないのはある種の平和の象徴でもあり大変喜ばしいことなのだがこうも何もないのでは寧ろむず痒いものがある。職業病というものなのだろう。
「連絡してみたらどうだ?」
「新世界創造計画はどうしたんですかって?」
煽りである。
「いいじゃねぇか」
ファルコはへらへらと笑う。
「でも、マスターもクレイジーも携帯なんて」
「にぃにの携帯にかけてみればいいよ!」
悪ノリが過ぎる。
「しょうがないなあ」
ルーティは渋々と携帯を取り出す。
そもそも連絡帳に敵の連絡先があるというのも如何なものか──とはいえピチカの兄スピカは僕の幼馴染みでもあるし。亜空軍所属偽物集団『ダークシャドウ』のリーダーとはいえ利害の一致で共同戦線を張ることも多々あるし。
何もないのなら。それだけで充分なんだから。