第一章
バトルルームの入り口で仁王立ちするのは──フォックスである。
「毎度毎度ご苦労なこったな」
「普段の行いが悪いからだろ」
どちらの言い分も正しいのだから困る。
「よう。トーナメントはどうなったんだ?」
ファルコが訊ねる。
「ええっと。確か次の試合はリオンと──」
言い終わるより早く参戦者をバーチャル世界に送り出すパネルに光が灯った。やがて光は立ち上り試合を終えた戦士たちの姿を象っていくと程なく弾かれて。
「よい試合だったぞ!」
「そ、そんな」
その男は気恥ずかしそうに縮こまる。
「……畏れ多いで御座るよ」
ミカゲ・クアトン。
あまり過去の出来事を掘り起こしたくはないが正義部隊に勤しむその裏で暗殺業を担う彼はかつて絶望の未来を捻じ曲げるために幾度となくルーティの命を付け狙った。今でこそ諸悪の根源たる放浪の悪魔を存在も概念も何もかも全てマスターとクレイジーが葬り去ったからこそ、この世界はもう二度と絶望の未来に転ずることはないと見て穏やかな関係を築いているが元来仕事とあらば情け容赦などないのだろう。
「あっ」
数ヶ月と経ったとは言っても。
その気まずさは拭い去れないものがある。
「じ、自分、水分補給を」
言うや否やドアの前まで早歩きで進み出て、
「ほあっ!」
……躓いたが何とか持ち堪えたようだ。
「賑やかな奴だな」
「あはは」
僕はもう気にしてないのになあ。