第二章



次いでスピカがマスターを抱きかかえようとしたその時だった。突風に煽られて炎が阻んだのである。ぎくりとして寸刻、足を竦ませたのが仇となり側面から撃ち込まれたエネルギー弾を回避すると同時に体勢が崩される。

「リーダー!」

ダークウルフが気付いて声を上げる頃にはスピカもロックマンと交戦中だった。駆けつけようにも意地悪く燃え盛る炎が行く手を遮り救援を許さない。思わず顔を顰めてしまいながら振り返る。他の連中が足留めをしてくれているとは言っても時間の問題。ならば当初の目的である双子の救出こそ最優先事項か。ダークウルフは迷いを振り払うように頭を振り駆け足で側端にあるフェンスを目指す。

「くっ」

互いの拳と蹴りが掠めて歯を食い縛る。その隙駆けつけてきたルーティがマスターの元へ──ロックマンはちらりと横目に捉えるとスピカの攻撃を受け流して踏み込んだ。まずいと小さく目を開いてスピカは黒の閃光を走らせる。

「させるか──」

そう叫んだのも束の間。放電のリスクも顧みずロックマンはスピカの腕を捕らえた。そのまま大きく引いたかと思うと体勢の崩れたところで容赦なくその背を蹴り飛ばす。ダメージの蓄積により軽々と飛ばされたスピカはその先でようやくマスターを抱きかかえようとしていたルーティを巻き込んだ。地面に横たわる獲物に狙いを定め機械化した右腕を構えるその人に正義に仇なす悪に対する一貫した容赦のなさに恐怖を僅かに抱きながらルーティは閃光を跳ねる。

刹那──エネルギー弾が放たれるとルーティはすかさず放電。まるで防壁のようにエネルギー弾の向かってくる前方に集中させた。狙い通りエネルギー弾を受け止めることに成功したが程なく爆発を引き起こしてルーティは倒れていたスピカとマスターと共に吹き飛ばされる。

フェンスを突き抜けて"外側"へ。


「うわああぁああああッ!?」


声を上げて、墜落。

幾度となく無防備な状態で空に投げ出された経験を持つがその都度地面に向かって放電することで落下速度の軽減を図っていた──が、中央司令塔最上階からの落下など前例があるはずもなく現に肝心の地面が見えていないという状況下では対応が困難とかそういう次元ではなく。

「あいつ」

スピカは遠ざかる最上階を睨む。

「ななななんで冷静なの!?」
「落ち着け」

小さく息を吐いて。

「……俺たちの"勝ち"だ」
 
 
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