第二章



まさか。──でも。そんな。

「ルーティ・フォン!」

攻撃を受け止めて思わず眉を顰める。

「何故。君が……!」


撹乱を誘うべく最も敬愛する特殊防衛部隊『X部隊』のメンバーに化けて現れた亜空軍所属の偽物集団『ダークシャドウ』。司令官の指示に従って妨害の警戒にあたっていた自分たちは無論対策も備えていた。彼らの動力源たる影虫の活動を鈍らせる光魔法による罠である。しかしただ一人だけその策が通用しない相手がいる。それが彼らを指揮するリーダー、スピカ。

どういう経緯だったか彼も創造神に与えられたらしい首に装着した黒いチョーカーを使用することで一定時間ダークシャドウと同じく変化をすることが可能のようだった──故に最初の奇襲を受けた時点で彼も影を纏って惑わせてくるだろうと踏んでいたのだがスピカだろうと交戦していたその相手がまさか本人だったとは。

予測をしていたはずもない。彼ルーティは本来こちら側の──正義の味方なのだから。


「くっ」

ルーティは応えない。空中で体を捻って蹴りを繰り出す。腕を交差して受け止めたが直後放電という洗礼を浴びて視界が眩む。ロックマンは意識を繋ぎ止めると力強い声を上げる。

「彼を止めろ!」

各隊員が振り向く。だがしかし注意を逸らせてしまったのは痛手だった。各隊員が事態に気付いて動き出すより先に今度はダークシャドウの影が彼らの体に巻き付いたのだ。彼らの影虫は光の中でこそ弱体化するが影とは光あって存在するもの。となれば光の満ちたこの場。物体の数だけ影が落ちる。──そう。


彼らダークシャドウが使役できる"武器"が。


「ウルフ!」

特殊な魔力が練り込まれた鎖か。小さく舌打ちして呼び付ける。

「はっ!」

出現と同時にその人の鋭い爪が牙を剥いた──鎖は破壊されて消失する。獲物を呑み込むべく容赦なく燃え盛る炎が焼こうとも断念する筈もない。スピカが顎をしゃくるとダークウルフはクレイジーを抱きかかえた。思いの外華奢な体つきと軽さに内心驚いてしまいながらも表情として出さずにダークウルフは声を上げる。

「撤退だ!」
 
 
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