第二章
レイアーゼ中央司令塔。最上階。
「現れませんね」
静寂を打つように呟いたのは紺の髪の少女。
「帰ったんじゃない?」
「どうかしら」
「本当にそうなら今日はもう休ませてくれ」
白衣の男は欠伸を洩らした。
「この程度で怖気付くなら大したことないな」
「言いたい放題だね」
「事実だろう」
「あはは」
軍師と思しき男は苦笑を浮かべて。
「どうしようか」
視線を投げかける。
「隊長」
冷たい風が吹き抜ける。宝石箱を返したような夜の街並みを一望できるその場所で景色に見惚れるでもなく青の双眸は冷めきっていて。
第四正義部隊『フォーエス部隊』。その指揮を取る完全無欠の絶対正義。
ロックマン。
「隊長?」
怪訝そうに繰り返すと彼はようやく現実に引き戻されたようだった。
「あ、ああ。来たのか?」
「来ないからどうしようかって話だよ」
「こっちも駄目そうじゃのう」
苦笑とあれこれが飛び交う中。
「何か気になることでもあるのかい」
その僅かな異変を見逃さず優秀な軍師マークは距離を詰めて囁く。
「……ああ」
ロックマンが視線を向けた先には彼の亜空軍の主将マスターハンドとクレイジーハンドの姿があった。諸悪の根源たる双子は今現在此方から気にかけるまでもなく神力は奪われ魔力までも封じ込まれてしまっている。司令官が提示した通り零の鐘が落ちる頃に骨の髄まで焼き滅ぼすという計画の元自分たちは妨害が入らないよう駆り出された。今回新しく入隊した半数以下となる隊員は寮に待機させているのが現状。
さて。何が引っ掛かるというのか?
言わずもがな彼ら双子が何故こうもあっさりと捕らえられてしまったのか。神力も魔力も使い物にならない状態にどうしてそう易々と叶えることができたのか。何の説明もされないまま、ただ信用しているからという一点だけでこの場に放り込まれたのでは此方だって思考や感情の働く生き物である以上納得がいかない。