第二章
「眠っているのか?」
「馬鹿。死にたいのかよ」
警備の男たちの会話を耳にしながら。
「だって力を使えないんだろ?」
ああ。返す言葉もない。
今の僕たちは"創造と破壊の力が使えない"。
「司令官が来たぞ」
男たちが道をあけて靴音の主が近付いてくると今度ははっきりと瞼を開いて迎えた。
「ごきげんよう」
口角を吊り上げて笑う。
「ぐっすりと眠っていたそうじゃないか。神である君たちにコンクリートの地面は冷たすぎやしないか冷や冷やとしていたのだが」
「お陰様で。人間臭いベッドに寝かされるより数千倍はマシだったよ」
皮肉を吐き捨てればその男はくっくっと不快な笑みをこぼした。
「──素晴らしい日だと思わないかね。一点の曇りのない空の下、長く恐れられてきた邪悪は絶たれる。至極真っ当な正義の手によって」
ゆっくりと目前に片膝をついた男はそう言って髪を触れると掬い上げた。余計な手出しが出来ないよう片腕は兄と同様に背中に回されて縄で括られている。その上でそれぞれの手の中指に嵌められた指輪が魔力の発動を許さない。とはいえ黙って触れられているはずもなく即座唾を飛ばした。唾が頬に付着するも男は顔色を変えないまま立ち上がる。……そして。
「!」
蹴られたのは──兄だった。
「兄さん!」
反抗的な態度が気に食わずに足蹴にしたがどうやら目を覚ましていたらしい兄が既の所で飛び込んで庇ったのだ。地面に倒れた兄を容赦なく男は汚らわしい靴の裏で踏み付ける。
「立場をお忘れのようだ」
溢れ出してやまない殺意を警備の男たちが許さない。呆気なく地面に捩じ伏せられてしまう。
「クソがッ!」
吠えど足掻けど笑みは深まるばかりで。
「ぶっ殺してやる!」