第二章
まさか、入り口にばかり警備の手を回して他は全てこんな調子じゃないだろうな。試しに機体から降りて庭園内の様子を窺ったが冗談抜きに人っ子一人見当たらない──確かに誰がこんな正面突破でもなければ上空からでもない半端な箇所から侵入してくるものと予測できたか。
見上げてみれば夜だというのにヘリコプターが忙しく飛び回っている。処刑の舞台は最上階にあるらしい。ルーティは息を呑んだ。
「ウルフ」
静かに名前を呼んで振り返る。
「連れてきてくれてありがとう」
ここから先。マスターとクレイジーを救出するということは政府の──それも司令官の意向に刃向かうという意味になる。どんなに言い訳を並べたところで処罰として特殊防衛部隊所属という立場を剥奪されることは明白。この世界を幾度となく恐怖に陥れた亜空軍の味方に付くということはつまりそういうことなのだ。
「そうか」
僅かな間を置いて返す。彼にとっては敵対する亜空軍こそ元々は本命だったのだし正義に強い拘りを持たない人なのだから黙っていればこのままついてきてくれそうなものだけど──彼の優しさにつけ込んでは駄目だ。一瞬でも過ったその思考を振り払って前に向き直る。
「!」
その時である。庭園の草木の影が別の生き物のようにザワザワと不穏な音を立てながらやがて──宙に舞い上がる。ぐぐ、と膨張するそれを目にルーティは思わず後退を図った。ふと投げかけた視線を拾ったウルフが目を細めて、よく見ろとばかりに顎でしゃくる。眉を寄せながら目を見張っていると程なく影は変化を終える。
「くふ……ほんとぉに来たんだねえ……」
艶めかしい笑みを口元に浮かべて。
「こんな形で会えるなんて……嬉しいよ……」
かくんと首を傾げる。
「……ルーティ?」