第二章
速いとは一概に言っても肉眼に捉えられないというほどでもない。現にあれは何だと気付いた人々が此方を指差して困惑している様子もちらほらと。後日ニュースになっていやしないかと考えたがそもそもの話自分はこれからとんでもないことを仕出かそうとしているのだ。
「うわっ」
力強く踏み込んだ機体が建物を蹴り出して高く高く跳び上がった。──中央司令塔がもうすぐそこまで迫っていたのだ。騒々しい声に地上を見下ろすと司令塔の入り口に多くの人々が押し寄せて警察が機動隊を揃えて抑えているという穏やかではない現場を目の当たりにした。
まさか自分たちだけが勝手に慌てて飛び回っているのではないかとも思ったが現実を突き付けられると言葉に詰まる。別段この状況を疑っていたつもりもないが本当に──マスターとクレイジーは捕らえられてしまったんだな、と。
とはいえ。正義などくだらないと見下していた彼らがどうしてこうも呆気なく政府に捕まってしまっているのだろうか。何か交渉を持ちかけられたのだとしても彼らには創造と破壊の力がある。何者であれ敵うはずがないのに──
「っわ」
ガクンと高度が下がった。程なくして司令塔の空中庭園にある草木の茂みに着地する。思わず閉じてしまっていた瞼をそっと開いて不気味な程に静まり返った辺りを見回す。
「誰もいないね」
ルーティは耳打ちをするように囁く。