第二章
力強く踏み込む。──蹴り出す。
「……!」
慣れない初動にルーティは思わず瞼を瞑った。速い──思っていた以上の速度だ。ゆっくりと瞼を開いてみたが周囲の景色を肉眼で追うのは流石に困難というものだった。注意を促された通り振り落とされないよう掴まらなければ──それでも見慣れた赤の戦闘機から落ちるよりはマシなのだろうが。雲の上とは異なり滞空時間なんて猶予はなく落ちれば即座容赦なく地面に体を叩きつけられるのが此方だ。どうあれ痛い思いをしたくなければしがみつく他無い。
「うわっ!」
高く。高く跳び上がる──反射的に瞑った瞼をそろそろと開けば紺碧の空と宝石のように光り輝く星々が視界いっぱいに迎えた。だがしかし景色を長く堪能する間もなく機体は降下するとビルの屋上に着地。直ぐさま蹴り出してビルの端から飛び出すと今度は民家と思しき建物の瓦屋根の上へ。足場として利用するための単なる通過点とはいえ住民は地震を疑っただろう──崩れる瓦を振り返って苦笑する。
「普段のウルフェンより速いんだね」
「"ハンター"」
ウルフはふんと鼻を鳴らす。
「『対地強襲用歩行形態』の肩書きを誇る優れモノだ。地上でこいつに追いつけるヤツがいるってなら直接拝んでやりたいものだな」
対峙する気満々だ。
「ソニックなら抜かせるんじゃないかな……」
「試してみるか」
「怪我させたら駄目だよ」