第二章
優しくて、──温かくて。
「フォックス」
言うより先に頭の上に手を置かれた。
「ちゃんと髪は乾かすんだぞ」
すっかり言葉を失ってしまっているルーティにフォックスはそうだ、と思い出したようにして首に掛けていたある物を取り外した。投げかけられる視線に構う様子もなくフォックスはそのある物を今度ルーティの首にそっと掛ける。
「これって」
それは。
かつて父ラディスが最も信頼を置いていた彼に差し上げた銀色の星型ペンダントだった。
「ルーティが持っていてくれ」
それでも困惑を隠しきれない様子のルーティにフォックスは続けて。
「無事に戻ってきたら返してほしい」
はっとする。
「少し大袈裟だったかな」
「ううん」
ルーティは首を横に振って。
「──約束する」
これ以上の会話を阻むように鐘の音が響いた。どきりとしたがこれはリビングに飾ってある古時計の午後八時を示す鐘の音──途端に現実に引き戻されてフォックスが急ぎ肩を叩いた。
「行ってこい!」
頷く。小鳥が飛び立つように駆け出す。
その背をフォックスは最後まで見つめながら。
「絶対に帰ってくるんだぞ。……」