第二章
コール音。誰かこの階段の側を通りはしないかそんなことばかり気にかけながら。
「、!」
ぶつりと途切れた。
「……もしもし」
電話の向こう側では呼吸音が僅かに。恐る恐る話しかけて相手の出方を窺う。
暫く返答はなかった。かといってそれが誤って応答ボタンを押してしまったという様子も見られず時間だけが過ぎていく。手っ取り早く問い質したい気持ちを抑えて沈黙してみるも相手もまた言葉を迷わせているようで何か応えようとしては息漏らす音だけが抜けていく。
「何処にいるの」
彼の性質はそれとなく把握しているつもりだ。素直とは無縁の性格が災いして突き放すように通話を切ってしまわないよう細心の注意を払い言葉を選んで発言する。
「仕事中にかけるなって言っただろ」
ようやく返ってきた声に思わず口を結んだ。
思い出す。……ああ。
確かにあの時は切断していたのに。
「皆は」
食ってかかってはいけないと律しながら。
「関係ないだろ」
電話の向こう側で。
「なんで」
相手は言葉を詰まらせながら。
「当然でしょ」
それでも。穏やかな口調で応える。
「……親友なんだから」