最終章
十四年。……十四年も経ってしまった。
髪も伸びて背も伸びて。顔付きも体付きも変わって──当たり前の変化が時間の流れを彷彿とさせる。同時に自分の姿形や物事に対する認識があの時から更新されていないことも未だ向き合うには辛い現実を突き付けるには充分すぎる判断材料で。
「いつまでも神出鬼没で自己主義で」
この声は。
「昔からやること変わんねーな」
「……クレシス」
彼が元の体を取り戻して目覚めたのもまた神様の粋な計らいというやつなのだろう。ラディスは小さく目を開いた後で懐かしむように表情を和らげると。
「第三子おめでとう」
「お前それ今ここで言うことか?」
「二度とない機会だよ」
「違ェねえ」
クレシスは喉を鳴らして笑う。
「どうよ。お前の守りたかった世界ってのは」
「……そうだね」
死後の体験というものはきっと皆が想像しているほど自由で優しくて豊かなものではなくて。朧げな意識の中を永劫彷徨っているような救いのない感覚で自分が何者なのかさえ分からない。
それでも。
時折飛び込んでくる景色は。
ただひたすらに目を奪われるほどに綺麗だった──
「、いいって」
催促を拒否する声に目を遣れば。
「俺はここから」
「フォックス」
その本人はぎくりと大袈裟に肩を跳ねた。
「こっちにおいで」
「、……」
優しく手招けど頑なに動かない。
「ありゃ」
ラディスは苦笑にも似た笑みを浮かべながら。
「嫌われちゃったかな」
無論そんなはずはないのだと誰もが彼の気持ちを理解していた。取り留めもない会話で場を繋ぎながらいつものように。冗談を言って肘で小突いて笑って懐かしい日々のように。妙な間が空いて胸の奥に仕舞い込んだ渦巻く本質に触れてしまわないように。
「!」
けれど不意に。
夢のような時間から目を覚ます時は来る。
『いかないで』
触れられないと知りながらも服の裾に触れようと伸びた手に気付いて視線を落とした先。小さな肩を震わせて泣きじゃくるゲムヲのスケッチブックに殴り書きのように刻まれた文字は紛れもない引き金で。
「そうだよぉ!」
「行かないでよぉ!」
糸が切れたようにポポとナナが声を上げる。
「寂しいよぉ!」
分かってた。
「……だから行きたくなかったんだ」
フォックスはそれまで背けていた顔を向ける。
「どうせ何言ったって行っちゃうんだろ……!」
──分かってたことなのに。
「うん」
啜り泣く声や虚勢を諦めて大声で泣く声。
「……うん」
様々な声に繰り返し頷く。
「なんだ。……よかった」
伝う。
「寂しくないのかと思った」
零れ落ちる。
「皆が……大丈夫じゃなくてよかった……」