最終章
……本調子ではなさそうだ。そういえば以前力を借りた時は体に馴染ませるのに時間が掛かったのだと聞いたけど見たところそうでもなさそうなのは彼が万全でないのも関係しているのだろうか。
「全く」
ルーティはぎくりと肩を跳ねた。
「まさかタブーを使うとはな」
瞬間転移により参じたマスターが呆れたように呟く横でクレイジーは腰に手を当て気怠そうに。
「メンテナンスだって楽じゃないのにさ」
遅れて──テレポートやルーラといった各々の技や飛行能力を介して皆が集まってきた。想像の通りルーティは開幕フォックスに力強く抱き締められる傍らピチカに太鼓の如く腰の辺りを繰り返し叩かれ、その他大勢に愚痴や賞賛を浴びせられて。……
ふと。
放心状態の二つの影に気付く。
「どうだった?」
金色の髪を揺らして顔を上げたのは。
「私は」
キーラは小さく口を開く。
「望んでいなかった」
この期に及んでまだそんなことを──キーラの発言にむっとしたファルコが反射で声を荒げそうになったところを逸早く察知したフォックスがすかさず手を伸ばして止めた。後に「……私は」と繋ぐキーラにルーティは口を結んで次の言葉を待つ。
「……お前は」
その質問は傍らの少年に投げ掛けられていた。
「おれ」
ダーズは口だけは笑いながら。
「おれはね」
まん丸とした目を歪ませて。
「痛くなかった」
透明な粒が。
頬をなだらかに伝って零れ落ちる。
「……痛くなかった、から……嬉しかったよ」
キーラはハッと息を呑んだ。
同時に──共に生きられないのなら命を断つべきだと引き連れていこうとした自分の行為が所詮はエゴでしかなかったのだと思い知る。長年忌み嫌って見下してきた人間と変わらない非道な行いを、心から愛する弟に良かれと思って向けてしまったのだ。
「……そうか」
光の化身だからと自負していた。
何もかも知った気になって無様な事だ。
私は。
何も分かってなどいなかった──
「マスター。クレイジー」
落胆したように視線を落とすキーラを背にルーティは横並びになって見つめる双神と向き合う。
「キーラとダーズのことなんだけど」
「いいんじゃない」
「認めよう」
早い二つ返事に目を丸くしていれば。
「ただし」
気を緩めるのはまだ早そうで。
「彼等は我々が管理する」
これでも最大限譲歩した結果なのだろう。この世界の平穏を脅かし全世界の人々や戦士だけでない神様でさえも手に掛けた──本来であれば命だけでない存在も概念も残されることさえ許されないのだ。
「うん」
そしてその条件を呑むかどうか選ぶのは。
「ふたりは?」
キーラが視線を落としたままでいるとダーズがおもむろに手を伸ばしてその手に触れた。
「お兄様と一緒なら」
優しい声に釣られるように。
「ね」
そろそろと顔を上げて向き合う。
「お兄様」
この先どんな苦難が待ち受けていても。
もう二度と離さないのだと誓うべきなのだろう。
「ああ」
キーラは柔らかく微笑みかける。
「共に生きよう。……ダーズ」