最終章
水面に一雫が落ちて、波紋が広がるように。
墜落地点に極彩色の巨大な蝶を模した羽根が浮かび上がる。それは淡く優しく光を灯して。
あらゆる全てを"零"にする──
「ヒーローは遅れてやってくるってやつかな」
衝撃も。
「かっこいいね」
受けた傷も何もかも。
「……ウルフ」
新世界創造計画用人型禁忌兵器──通称タブー。
この騒動の中で不運にも光の化身キーラの洗脳に掛けられ、早々に退場した彼を引き連れて現れたのはパートナーのウルフだった。
もちろん手を引いて現れたのではない。
タブーはウルフの体の中にいた。気分屋の彼がどんな口車に乗せられたのか知らないが禁忌と称されるその力を貸すべくして魂のように宿ったのだ。
そしてこの場に参じた。
奇跡と呼ぶべきタイミングで。かつて創造と破壊の力に呑まれ暴走したルーティを止めた時のように。
あらゆる全てを──"零"にして。
「来ないかと思ったよ」
「テメェは時間を守るんだな」
「もう。そんなの分かるわけないでしょ」
そう語り合う間にウルフの背中から抜け出た紫色の光の球が人の形を成して降り立った。そうして光が弾けて本来の姿を現せば真っ先に気付いたルーティが「あっ」と小さく声を上げて反応を示す。
「……おはよう?」
前髪を直して呑気に欠伸。
いつもと変わらない寝惚け眼で。
「おはよう。……ルーティ」
これまで海の上に立っているものかと思っていたがどうやらこれは半径十メートル程の面積を持つ透明な足場が水面上に作り出されているらしく。踏むと青白い光の電子回路がほんの一瞬浮かび上がるがこれはまさしくタブーの羽根の模様で彼の力が働いているのであろうことを想起させる。
「大丈夫?」
ルーティは首を傾げた。
「んー」
前述の通りタブーはキーラの洗脳に掛けられてしまっていたので対峙した際マスターの判断で強制的に活動を停止させるべくクレイジーが動力源である核を抜き取るという選択を取っていた。その核を元に戻したところで元の記憶を引き継いで正常に再稼働するかどうかは分からないという話になっていたが今の状態を見るに上手くいったということなのか。
「とても、ねむい」
タブーはうつらうつらしながら。
「マスターとクレイジーは……どこ……?」