最終章
じわりと液体が滲み出す。
連想する赤とは程遠い色をしていた。
「げ、ほ」
きっとそれは。
「、っ」
もう何千年と昔から。……
「ぁ」
糸が切れたかのように羽根や触手が崩れて落ちたのが引き金だった。キーラはダーズ諸共羽根に串刺しにされた姿勢のままゆっくりと頭から落下。今度こそ力の全てを出し尽くしたようで──かといって抗う様子もなく。この世界を、人々を嘆くでもなく叱咤するでもなく無言で。長い睫毛の下で澄んだ青の瞳は遠ざかる空を見つめていて。
「、あは」
不意にダーズは嗤う。
「ざまぁみろ」
嗤う。
「お兄様はボクと一緒に逝くんだよ? この世界の為に自分を手放して運命まで捧げたのに」
……嗤う。
「滑稽だよね! それも最期は大嫌いなボクと」
「ダーズ」
掠れた声が名前を呼ぶ。
「なに」
手が頬を触れる。
「愛してる」
それは。
「ぇ」
何百年も何千年も昔から。
「なんで」
欲して止まなかった唯一無二の言葉で。
「何言ってるのお兄様」
「愛してる」
「なんで」
「ずっと言いたかった」
「今更だよ」
ダーズは笑いながら口角を引き攣らせる。
「もう遅いんだよ?」
ぼくもお兄様も変わってしまった。
温かな体温を分け合った日々には戻れない。
「それでも」
キーラは抜け落ちていく意識を繋ぎ止めるように。
「……ずっと言いたかった」
ゆっくりと紡ぐ。
「不出来な兄を許しておくれ」
今更だ。
「……あはっ」
許せるはずがない。
「あははははっ」
オレを虐げて迫害してきた連中と一緒だ。
愛されていればこんなことにはならなかった。
今更。今更。今更。……
「おにいさま」
頬を触れる手の甲に自身の手を重ねる。
「ご、めんなさい」
なのに。
それが慈悲による嘘だとしても。
「ごめんなさい……っ!」
お兄様は。
優しくて暖かくて狡い。
「おれ……っおれ、……」
顔を歪ませて泣きじゃくりながら繰り返すダーズを優しく包み込むように抱き寄せる。
「本当のお前の声で返事を聞かせておくれ」
「うん、……うん……っ」
ダーズは応えるように背中に手を回すと。
「っ……おれも」
これまでにない精一杯の笑顔で。
「おれも、愛してるよ……お兄様っ……」