最終章
気持ち、悪い……まるで、体の隅々まで探られて、見られているみたいだ……っ
「力を抜いて」
キーラはまるで脳に直接呼びかけるように優しい声音で囁きかけながら探るようにゆっくりと後ろから回した両手を手首まで沈ませた。このまま心臓や何かしらの臓器を引き摺り出されるものかと思いきや何かに突き当たったのかぴたりと手を止めて。
「……キーラ……?」
怪訝に思ったルーティは不快感から瞑ってしまっていた瞼をそっと開いて視線を遣る。
「ああ」
キーラは呟く。
「やっと……見つけた」
次の瞬間。
「、!」
目と鼻の先にまで接近を許したクレイジーの黒渦巻く装甲を纏った左腕が振り下ろされれば既の所でキーラはルーティを解放した。ともなれば今度こそ墜落を余儀なくされる彼を兄の命令通り救わない訳にはいかずクレイジーは小さく舌を打った後で意識を半分失いかけながら落下するルーティを追う。
その隙。キーラはおもむろにダーズの動きを拘束するマスターへと目を遣るとその双眸を青黄赤の順に変化させた。刹那防壁の四方に瞳孔を据えた光の球が生成されたかと思うと光の波紋を打ち出したが直撃を受けても尚防壁には傷一つ付かない。その結果は予測の範疇でマスターは仕掛けて返すべく右手の指を鳴らそうと構えたが不意に手首を掴まれて。
「お兄様が呼んでるの」
憂いを帯びた水縹の眼を向けながら。
「ばいばい」
次の瞬間マスターは目を開いて待避を選んだ。
無理もない──闇も混沌も招けないよう防壁を展開したというのにまさか彼の背中から触手が飛び出してくるものだとは。皮膚や臓器を突き破るなど凄惨な光景とはならなかったがこれまで見せられなかっただけあって目を疑うものがある。マスターが瞬間転移を使って離れてしまえばダーズの背中から飛び出した触手は防壁を内側から叩き付けて容易に崩壊させた。ダーズは笑みを浮かべて頭を擡げる。
「……お兄様」
まるでこの世界にたったふたりであるかのように。
「これで、やっと」
全ての音が途絶えて声が通る。
「……終われるね」