最終章
死角を突くようにして剣のように形状を変化させた羽根がクレイジーの体を貫いたが頭の先から爪の先まで瞬時に黒く染まったかと思うと僅かに膨れ上がったが直後墨汁のような黒が弾けた。それは二手に分かれて飛び出し攻撃を振るった主人に向かって踵を返したがキーラが手を差し向ければ二対の羽根が今度は槍のように形状を変化させて応戦。
それぞれに穿たれたが実体を持たない黒は更に分かたれた後で黒を渦巻く四振りの剣の姿に変化。埒が明かないと冷静に判断したキーラが自身の後方に複数の魔方陣を展開し光の魔法による対抗を目論むもそのいずれも何の前触れもなくひび割れて崩壊。
マスターが展開した防壁の中では恐らく闇も混沌も招けないのだろう。直ぐにでも手を下せるところを敢えて延命させているのは兄の逝き様をよく見ておけというある種の慈悲のようなものか。ルーティは思わず手に汗握りながら圧倒的な戦況に見入る。
ふたりが。
本当に神力を取り戻しつつあるのなら。
キーラとダーズに勝てる。
こうなった以上、あのふたりに勝ち目は──
「、……」
みるみる内に口の中が乾いていく。
勝ち目がないふたりは。
……どうなる?
「当然の報いだと思って受け入れろよ」
四振りの剣はそれぞれが意志を持ったかのように二対の羽根を蹂躙するとその形を崩してキーラの目前に本来あるべき正しい形を成した。クレイジーは左腕に黒渦巻く装甲を纏いながら大きく手を引く。
キーラは。
何かを言おうとして、……
「!」
警戒の範囲外から不意に左腕に向かって青い電撃が撃たれればダメージはなくとも気を取られた。
そう。その一瞬の隙でよかったのだ。
「キーラ!」
星の煌めきの尾を引きながら。
迷いなく飛び込んでその手を掻っ攫う。
「っ……いつも……いつもいつもいつも!」
目前にして獲物を取り上げられた猛獣のようにクレイジーは苛立ちに奥歯を食い縛りながら。
「僕と兄さんの邪魔をしやがって──ルーティッ!」