最終章
目にも留まらぬ速度で織り成される踵落とし──あれを肉眼で視認したが最後誰であっても避けられるはずがない。両断された触手は痙攣を起こした後に断面から順に紫色の粒子と化して消えた。その光景は一箇所のみに留まらず自身の使役する大多数が撃破されていくのをダーズは呼吸を乱しながら頭を抱える。ぶつぶつと小声で繰り返すのを気にも留めずロックマンは砲口を差し向けた。
「だめ駄目ダメだめ、駄目、だめだよそんなの、」
空気が澱む。
「嫌だイヤだ嫌ダいやだイヤダ」
お兄様。
「──隊長ッ!」
取り乱すダーズに寸刻気を取られたが直後。
遂に双眸を紅く染め上げたキーラが振り返ったかと思うと纏う四対の羽の内、二対が瞬間転移してロックマンの立つ足場を下から上からタイミングをずらして突き上げと突き落としにより崩しに掛かったのだ。反応に遅れたロックマンだったが仲間の呼び掛けにより直撃を免れるも回避した先が恵まれず踏み堪えた途端に崩れてしまう──まずいと飛び出そうとする面々だったが周囲に点々と生み出された光の球それぞれから点と点を繋ぐように放たれた光線が行く手を阻む。誰もが驚愕と焦燥を滲ませた。
だがしかし。
事態はある人物の登場により一転する。
「、!」
次の瞬間ロックマンは空中で宙ぶらりんとなってしまっていた。予測の遅れた事態に対応の間に合う隊員が居たとは大したものだと感心して顔を上げたが見知った顔などではない。自身の右腕を掴み墜落を阻止してくれたのは腰まで流れる藤色の髪を高い位置でポニーテールにして結った金色の目の男。かの古代兵器を覚醒させた諸悪の根源。
「リドリー」
ロックマンは呆気に取られながら小さく呟いた。
「ッ……クソが……!」
その本人は歯を食い縛りながら。
「勘違いすンじゃねえぞ正義厨の弱者共が!」
背中に生えた蝙蝠の様な翼を大きく羽ばたかせて。
「目醒めさせた恩も忘れてこのリドリー様に盾付きやがったそこの役立たずの成り損ないに落とし前を付けにきたってだけだ!」
足場へと引き返し投げるように解放する。
「隊長!」
事態に気付いて参じるタイミングを大きく前倒しにしたのだろう駆け付けたのはルフレとマーク、それにパックマンだった。遅れて足場に降り立ったリドリーはひと睨み置いてキーラを振り返る。
「何、あいつ?」
「無事だったんだね」
「完全に読みが外れたわ」
口々に呟く三人の内マークの手を借りながら立ち上がったロックマンはその背を見遣る。ふむ、と意味深に唸って何やら思考している様子にそれとなく嫌な予感というものを感じ取ったのかマークの視線を受けたパックマンが「隊長」と呼び掛けて戻す。
「今そいつのことはいいだろ」
「それもそうだな」
言ったが直後四対の羽が槍の形を成して四方向から差し向けられれば全員が構えた。
「怒らせちゃったみたいだね」
モナドを握る手に力を込めながらシュルクが呟く。
「注意が向いたということは」
「風向きが向いたということ」
マークとルフレは魔導書を片手に口々に。
「即ち」
魔導書のページが独りでに捲れれば風が巻き起こり足下に一つの魔法陣を展開する。
「──読み通り!」