第十三章
……煩わしい。
「お兄様?」
希望に満ちた勇ましい声。気迫。状況は変わっていないというのに光を掴み取ったかのような軽やかで忌々しい音。先の未来を読めていない愚かしい遊戯など敢えて視線を遣らずとも虫唾が走る。
「気になるんだ。……お兄様」
次の瞬間キーラの目と鼻の先にぎらりと光沢の走る赤紫色の鋭利な先端が差し向けられた。その正体は無論触手であったが後一歩といったところで槍を模した形に変貌した複数の羽根に貫かれることによって静止したようで──にも関わらずキーラは表情筋一つ動かさないまま触手が先端から順に粒子となり消滅していくのを見届けてその先で髪の毛を掴んで項垂れるダーズに視線を返す。
「嫌だよ。お兄様」
キーラは黙っている。
「……ぼく以外」
ダーズは勢いよく顔を上げる。
「オレ以外見ないでッ!」
嗚呼。
「はあああッ!」
マスターとクレイジーを捕らえるべく常に彼らを中心に置いて大きく囲うようにして動くダークシャドウの作り出した影が縦横無尽に後を追う過程で舞い上がった砂埃に紛れて死角から拳を叩き付けようとリムが飛び出したが、空間転移によって躱された。回避先を読んでミカゲが水手裏剣を投擲するもマスターはその一方向のみを予測して一箇所に絞った六角形の防壁を張ることで打ち消し、入れ替わりに飛び出したクレイジーの接近から逃すべくユウによる遠隔テレポートがミカゲを回収する。
「っ、かたじけない」
ユウはふんと鼻を鳴らす。
「これは……埒が明きませんね」
「お前らの上司だろ! 弱点とか──!」
「あれば下剋上でもして退社していますよ」
ぼやくダークファルコの横に並んだパックマンだったがクレイジーがエネルギーピラーを投げ付けてくればすかさず飛び退いて回避──けれどその回避した先で言及されていたマスターの半径十五メートル以内に踏み入ってしまいこのタイミングで例の強制コマンドが発動する形となる。
「っ……フシギバナ! ソーラー……ビーム!」
巻き込まれる形となったブルーは地面に膝を付きながら範囲外にモンスターボールを投げて手持ちのポケモンに対処をさせようと目論む。鳴き声を上げて飛び出したフシギバナは命令に従って背中の大輪にエネルギーを吸収させるがそれに気付かないはずもなくマスターは指を鳴らすと周囲に浮遊する複数の赤色の魔導書を作り出して赤色の魔方陣を展開──発動する。
「ピカァッ!」
効果抜群の焔の柱をフシギバナの前に飛び出し放つ電撃で食い止めたのはなんとピカチュウだった。そのピカチュウには見覚えがあるのだろう同じく強制コマンドの餌食となっていたレッドは気付くや否や震える腕で肘を立てながら声を絞り出す。
「ピカチュウっ……十万、ボルト……ッ!」