第十二章
「っ……クソ、がぁあ……ッ!」
クレシスは体の至る所に音を立てて黒の閃光を跳ねながら強制コマンドに逆らい腕を立てると、遂には己が意地だけで立ち上がった。気付いたマスターが冷たく尻目に捉えるのも構わず飛び出した彼がとった行動はまさしく無鉄砲といったもので──拳を打ち込むべく大きく振りかぶったが刹那マスターが右手を差し向けると空中でぴたりと静止して。
「クレシス……っ!」
フォックスが眉を顰めながら叫ぶ。
「ぐ……っ!?」
次いでマスターがまるで首根っこを掴むかのように手を動せば途端にクレシスは自身の首を絞め付けられるかのような感覚に襲われた。苦しそうに呻く彼に誰もが最悪の事態を悟りながらそれでも結局は身動き一つ取れない中──マスターは終始冷めきった様子で静かに目を細めて。
躊躇なく。右手を。
「?」
その時だった──舞い上がる砂埃を何かが勢いよく突き破り飛び出したのは。
「……!」
電気の擦れる音を纏いながら一直線に。
小さく目を開くばかりの創造神の不意を打つ。
「ッは──!」
クレシスが目には見えない拘束を解除されて地面に投げ出されるのとその他全員が強制コマンドから解放されるのはほぼ同時だった。当然といえば当然である──何せそれを発動していたそのひとは突如として現れた何者かの不意打ちにより弾き飛ばされてしまっていたのだから。
「はぁっ!」
若い掛け声の主が追撃するべく宙に浮いたマスターに迫ったが二発目を易々と通すつもりは毛頭ないのか空間転移により距離を取られて。その隙に今度はクレイジーが空間転移によってまだ体勢を整えていない戦士たちの前に現れるのを見たその人は手を下すよりも先に青い閃光を纏いながら駆け出し目にも留まらぬ速さで突撃する。
「、お前は……」
またも舞い上がる砂埃で視界不良の中。
「……はは」
正体に疑念を抱くクレシスにその人は答える。
「この姿の方がしっくりくるんじゃないか?」
砂埃が晴れていく。
「なぁんて」
クレシスは静かに目を開く。
「……ラディス……?」
風に揺蕩う黄金色の髪。
正義と闘志を宿した紺鼠の瞳。
「やっぱり」
特殊防衛部隊『X部隊』のリーダー。
ルーティ・フォンの体を"借りた"その人は。
「正義のヒーローはこうでなくっちゃな」
振り向きざまに柔らかく笑う。
「……もう、大丈夫」
重なる。
「──ここから巻き返そう!」