第十二章
次の瞬間。
「な」
夥しい数の見覚えのある半透明な硝子板と剣や槍といった武器が浮かび上がったのだ。それが一体幾つあるのか等は凡そ想像もつかない──その上で今度はクレイジーが頭を抱えて苦しみながら空をも劈く悲痛な叫び声を上げて天を仰ぐ。次にゆっくりと戦士らを振り返ったかと思うとなんと彼の左目からは真っ赤な血がまるで涙のように頬を伝い落ちて。
「……おいおい」
嫌な予感というものは的中するものである。
「総員、攻撃に備えろ!」
号令をかけたのはロックマンだった。音を置き去りにしてクレイジーが飛び出したのはその直後のことで一体どんな攻撃を振るったのやら目にも止まらぬ速度であるばかりに姿を視認できないまま土煙が舞い上がり複数人の戦士たちの体が吹き飛んで──その横では襲い来る剣や槍といった武器に対抗する戦士たち。その内にマスターの背後に展開した青白い魔法陣の中心部から光線が放たれたかと思うと硝子板を反射して予測不能な動きを魅せながら。
「うわっ!」
「きゃあああっ!」
この、状況は──!
「仕掛けてきやがったか」
冷静に呟くクレシスの横で回避の為に移動していたルーティは咳き込んだ。
「どうあっても邪魔はさせないつもりらしい」
「……みたいですね」
「兄弟喧嘩がそんなに大事なもんかね」
「それは、……分かんないですけど、」
大きく咳をした後で息を吸い込み言い放つ。
「絶対に止めてやります」
神々が鉄槌を振り下ろし戦士らを薙ぎ払う様は一見して絶望的な光景でしかないが好機と捉えるべきなのかもしれない。相変わらず簡単に仕留めさせてはくれなさそうではあるものの矛先が向いたお陰で予測しやすくなった。それは自分だけじゃない恐らく他の皆もそう思っているはず──普段敵対しているダークシャドウとフォーエス部隊が今この時に限ることであれ協力の姿勢をとってくれているのだ。
怖気付く必要はない。
僕たちなら絶対にやれる!
「クレシス」
混乱に乗じて抜け出してきたのだろう、ラディスはルーティの足下に居た。
「彼らの喧嘩とやらに決着が付いたとして、素直にこの世界を受け渡してくれると思うかい」
「……思わねぇな」
クレシスはふんと鼻を鳴らす。
「行きな。餓鬼どもの始末は俺らが請け負う」
顔を見合わせたルーティとラディスは頷いた。
「……お願いします!」
「頼んだよ!」