第十二章
風が吹き抜ける。
「嘗めてもらっちゃあ困るんスよねぇ」
ダークフォックスは笑う。
「こっちの方が──"影"長くやってんスよ!」
──陰りの正体はダークシャドウの生み出した影の壁だった。彼らの足下から伸びた影が表に突き出た上で形状を変化させて黒の触手の攻撃を押し合うでもなく悠々と防いでいたのだ。成る程自負するだけの力はあるらしい──先程とは逆に窮地を救われる形となりロックマンは口元に薄笑みを浮かべる。
「お気に召されたようで何よりです」
「ああ。お前たちを敵に回すとどれだけ恐ろしいか目の当たりにしたよ」
何処まで本気で言っているのやら。その恐ろしいと称する敵を寸刻前まで追い詰めていたのはそちらだろうに。ひと睨みするダークウルフに反してダークファルコはふっと笑みを零す。
「同感です」
あれ。あれあれ。あれぇ?
「変なの」
地上の異変に気付いたダーズはダークシャドウがフォーエス部隊と手を組む瞬間を目の当たりにしながら取り乱すでもなく首を傾げて不思議がるような素振りを見せる。
「もうすぐ終わっちゃうのにね」
そうして不意を突くようにダーズを正面から貫こうとした巨大な槍を模した光は空間を歪ませ出現した複数の黒の触手によって受け止められた。役目を果たした触手は攻撃を仕掛けた光と同じタイミングで粒子となり風に流れて消失したがその最中ダーズはゆっくりと正面のキーラに顔を向ける。
「ね。お兄様」
忌々しい。
「ァ」
人間と云う生き物は何処までも。
「キーラ、……様」
愚昧卑屈で目に余る──
「うわっ!」
X部隊は変わらず此方に一切目もくれないまま激しい攻防を繰り広げるマスターとクレイジーをどうにか鎮圧させようと立ち向かっている最中だった。そんな中で青白い電光を身に纏いながらマスター目掛けて突進したラディスは空間転移によって躱されてしまいその先にいたフォックスの腕の中に飛び込む形となる。
「っと、大丈夫か?」
「……今そいつ喋ってなかったか?」
隣から覗き込むファルコにラディスは冷や汗が噴き出すのを感じながら反射で口を結ぶ。
「、ちょっと様子おかしくない?」
ピーチが声を上げる。
「そんなのずっとそうだろ」
「そうじゃなくて!」
「……あ!」
訝しげに突っ込むマリオにピーチは眉を寄せるも次いで異変に気付いたヨッシーが指差せば今度全員攻撃の手を止めて注目した。だらんと頭と右腕を垂れるマスターは透明な防壁によって守られているようでクレイジーの執拗な攻撃を物ともしていない。けれどその内にふと頭を上げると右目を深海のように深い藍色に染め上げて。
「キーラ、様の……仰せの……ままに……」