第十二章
風に煽られた黄金色の髪が揺れる。
「……どーも」
ほんの少し首を反らせて顔を向けたその人が応えた瞬間希望は打ち砕かれた。ダークウルフは困惑した表情を浮かべながら立ち上がる。
「お前、」
薄笑みを捉えて冷や汗。
「……誰だ……?」
リーダーじゃない。
「まぁまぁそう警戒しなさんな」
爆撃と爆風と。落ち着ける状況でもないと言うのにその少年は正面に向き直り肩を竦める。
「この状況で」
「正気かい?」
ルフレとマークは口々に言ってそれぞれが剣と魔導書を構えた。全く以て仰る通り、敵の面前に躍り出ながら言えた台詞じゃないのは一目瞭然ならぬ一耳瞭然というもので──それだというのにその少年は余裕綽々といった笑み。
「あんたら正義部隊のその悪を悪以外に有り得ないと決め付けて手を下す執着にも似た姿勢は感心するがね……真実も見極められずに暴走してたんじゃぁせっかくの正義も廃るってもんだ」
ロックマンは目を細める。
「これが時間稼ぎのつもりなら感心しないな」
「稼いでどうにかなるような状況か?」
依然として上空で両者譲らず激しい戦闘を繰り広げるキーラとダーズ。彼らの支配下に堕ちてしまったばかりに正しい思考を封じ込められ、絶え間なく攻撃を振り続けるマスターとクレイジー。それを止めようと奮闘するX部隊……
それはもう明らかに。あからさまに──例えば正義が許せなくとも悪が許せなくとも。事件を起こした元凶を放っている場合ではないのだ。
分かっているはずなのに。
「時間が無いことが分かったところで交渉だ」
そうして──その少年はおもむろに胸ポケットから取り出した拳銃を向けるのだ。
「フォーエス部隊。ダークシャドウと協力しろ」
他でもない。
"自分のこめかみ"に。
「何を始めるかと思えば」
ロックマンは冷たい表情を崩さない。
「……感心しないな。結局のところ目的は愚かにも劣勢にまで落ち込んだ仲間の救済だろう」
嘲るように小さく鼻を鳴らして。
「自分の命にどれほどの価値を見出しているのか知らないが──いや。知ったことではないな。すぐにでもその引き金を引いて取るに足らない生涯に終止符を打つといい。呆気なく地面に伏すその瞬間を見送った後でチームメイトも同じ地獄に我々が直々に責任を持って送って差し上げよう──」
赤々とした液体が噴き上がったのは。
その直後のことだった。
「……!」
ダークウルフは大きく目を見開いて硬直する。
「ッ、か……」
何が──起こった?
どうして奴の構えた拳銃の背から飛び出した仕込みナイフが。胸部を突き刺して。
いや、……まさか。
自分の手で。自分の意思で刺したのか──!?
「っ……そりゃぁな」
少年は表情を歪ませながら。
「事情を知らなきゃ大正解の反応だわな……」
ダークウルフはナイフの仕込まれた拳銃に見覚えがあるような気がして自身のレッグホルスターをその光景から目を離さないままに弄ったが目的のそれは何食わぬ顔で存在していた。
だとすれば、あれは、……本物が?
何の為に──
「第四正義部隊……フォーエス部隊、管理下」
激痛に震えながら言葉を紡ぐ。
「クレシス・リーの、命令だ……」
……は?
「繰り返す、……ダークシャドウと協力しろ……」
尚も自らの手で胸部に。心臓に。
「……じゃねぇと」
深く深く。ナイフを突き立てながら。
「息子共々お陀仏だぜ……?」