第十二章



ただ墜落していくだけであるはずもない。分厚い雲の上に被せられるようにして広がる透明な地面に触れる寸刻前。マスターもクレイジーも意識を取り戻したかのように目を開くと地面に沿うように飛翔。多少のちょっかいなど目もくれないといった様子で地面擦れ擦れを平行に飛びながら互いの技をぶつけ合うのだから当然のこと被弾も発生してしまう。

「きゃあっ!?」

凄まじい爆撃音は示しを合わせたかのように随所から。爆発にこそ巻き込まれなかったが生じた強風に煽られて戦闘中だったルフレの構えていた魔導書が掻っ攫われ空を舞った。応戦していたダークウルフは舌を打って被弾を防ぐべく赤い反射板を展開。目論み通りに赤だの青だのといった光の弾を弾きながらも不運にも視界を妨げる黒煙の先から何が来るかまでは予測出来ずに。

「んなっ、」

突如として飛び出してきた黒い影に回避の余地すらなく巻き込まれて地面に転がる。

「あっ……づぅぅ……!」

結果として胸に受け止めたその相手は敵対するその相手ではなく寧ろ逆で。呻き声に釣られて見遣ればその正体は焦げ跡だの火傷だのを要所要所に負ったダークフォックスだった。

「想像していた通りの結果だな」

構える音に顔を上げれば正義部隊を執り仕切るその隊長たる男の姿。

「おや」

ダークファルコは周囲の状況に目配せをすると苦笑にも似た笑みを零した。

「劣勢ですか」
「当然だ」

ロックマンははっきりと言い切る。

「悪は正義に勝らない」

まさか落とされた首を掲げられているという話でもないが。ひとたび気を抜けばそうなるであろう戦況の仲間たちが目立つ。詰まる所がぎりぎりのところを踏み堪えているのだ。不意打ちで強気に飛び出したというのに笑い話にもならないザマである。

「っは……狡くねぇ?」

ダークフォックスは体を起こしながら。

「俺らはリーダー無しでやってんのにさぁ」
「居たって状況は変わらないわよ」

ルフレは鋭く睨み付ける。

「それともみっともなく足掻くかい?」

マークは追い打ちをかけるように。

「僕たちは構わないよ」

悠々と魔導書を構えながら。

「……傷を増やしたいのならね」

ダークファルコの視線を受けてダークウルフはくっと眉を寄せた。此方には一切の目もくれず横切った我らが主たる双神は相変わらず正気を取り戻してはいないようで激しく技と技を交えているのを何を考えているのやらX部隊の連中が間に割って入ろうと奮闘している様子。

彼らだけにあの場を任せるのは果たして正しい判断だろうか。想い慕うあの人の意志を尊重して奴ら正義部隊だけは如何なる状況であれ気を許してはいけないのだと独断で交戦しているが優先順位を違えているのでは。けれど今の今更それを考えたところで戦いの火蓋を切った以上は対峙している正義部隊が止めてくれるはずも。

「これ以上は時間の無駄だな」

ロックマンは小さく息を吐き出す。

「如何なる迷いが生じたところで俺たちはそれに応じない。故に此度の結果は知れている」

そうして改めて構えられた彼の右腕の砲口の奥に青白い光のエネルギーが凝縮されていく。

「最後に勝つのは」

ダークファルコとダークフォックスは構える。

「正義──」


その時だった。


「、!」

上空から。対峙する二者の間に割って入るように雷が落とされて煙が舞い上がる。その雷の色は漆黒の如く。自分がそれを見間違えるはずもない。

「……よぉ。待たせたな」


──この声だって。


「り、リーダー……!?」
 
 
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