第十二章



耳を劈く咆哮──背後に赤い魔法陣を展開させて。引き摺り出したエネルギーピラーを手に濁音混じりの雄叫びを上げて襲いかかる弟を冷たい深海の目で見据えて防壁を展開、防ぐ。


どうして。何故。

疑問すらも浮かばない。


全ては──我が主の仰せのままに。


「、!」

攻撃を下すべく差し向けた右手の手首を捕らえたのは萌黄色の蔓だった。雲よりも高い空の上で草木が茂る筈がない──そうしてほんの一瞬気を取られたマスターが目を向けた先に居たのは。

「捕まえたっ!」

シフォンの能力をコピーしたカービィと。

「メタナイト!」

振り下ろした剣は案の定防壁によって阻まれた──けれどそんなものは相手があの創造神ともなれば予測の内。メタナイトは此方に一切目もくれず防壁を突破しようとエネルギーピラーを執拗に振るうクレイジーを横目に捉えると剣を引いたと同時に背中に広げた蝙蝠の翼を力強く羽ばたかせて大きく後退。虚空を蹴って更に高く飛翔すると回転しながら剣を薙ぎ払い自分を中心に黄金色の竜巻を発生させて──そして。


「はああああああッ!」


体を捻り回転しながら。

無防備に背を向けたクレイジー目掛けて。


「、!」

だからといって追突をそのまま受け入れる筈もなくクレイジーはその直前になって振り返るとエネルギーピラーで剣を受け止めた──けれど元より目的は首を取ることではないのだ。メタナイトは仮面の奥でくっと眉を顰めて剣を思いきり引いたが刹那──踵落とし。

それもエネルギーピラーが受け止めたけれど。衝撃までは流せないまま。


クレイジーは。

その背の防壁に背中を叩き付けて。


「ちょっ」

硝子が割れたような音が響き渡ったかと思うとクレイジーは背中から防壁を突き抜けてマスターを巻き込みながら墜落。一部始終を見ていたカービィは小さく目を開いて思わず声を上げる。

「段取りが違う!」
「結果として目的は果たせただろう」
「もー」

墜落していく双子の兄弟を見送りながら。

「連携でキメんのがかっこいーのに」
 
 
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