第十二章
まさかこのタイミングで状況が見えていないはずも──兎にも角にもルーティは遠く離れたX部隊メンバーに呼び掛けて集合をかけることにした。もちろんこの場所が被弾のない安全地帯というわけではなかったがそれを求めてあちらこちら彷徨うくらいならそもそもの元凶を鎮めた方が何より手っ取り早いのだ。……そういうことだろうか?
「おにぃっ!」
お馴染みでありながら今となっては懐かしいピチカの飛び付きを真っ向から受け止めながらルーティは改めてクレシスを振り返る。
「集まったな」
「……どうするんですか?」
「奴らの注意を引け」
もしや今戦っているフォーエス部隊とダークシャドウを放置してこの人数だけで今回の事件を解決しようなんてつもりじゃないだろうな? それは流石に無理があるのでは──そう思ったのはルーティだけじゃなかったらしく。
「無茶よ!」
リムが反論する。
「私たちだけであいつらをどうにかしようなんて、それこそどうかしてるわ!」
「話は最後まで聞けよ相変わらずだな」
クレシスは気怠そうに小さく鼻を鳴らす。
「完全な"神"に成る為にはどうしても餓鬼どもを玉座から引き摺り下ろす必要がある──そいつを見越してんだかそうでないんだか知らねえがダーズがキーラに執着してくれているお陰で進捗がねえのが現状。……つまり神の権限があるのは?」
マリオは腕を組みながら。
「マスターとクレイジーじゃないか?」
ルーティはもう一度空を見上げる。
現在、マスターとクレイジーは自らの意思ではなくそれぞれがキーラとダーズによる強い洗脳を受けて忠実な駒として互いの力をぶつけ合っている。捕まる以前の動きとはまるで違う──失われていた神力も恐らくは大なり小なり補充されているのだろう。
「そこまで理解できてりゃあ上出来だ」
「な……何なの?」
訝しげに視線を注ぐリムの側で恐らく察しが付いたのであろうマルスがはっとする。
「クレシス……まさか」
「苦情なら後でいくらでも受け付けてやる」
言うや否やクレシスの頬に黒の閃光が迸る。
「飛べる奴からちょっかい出して奴らを地上まで引き付けろ!」
……今の声は。
「はあっ!」
威勢がよかったお陰で直前の攻撃に気付けた──ダークウルフは稲妻纏う剣の一振りをバックステップで躱した先で誰かと肩を軽く触れてそれが奇しくも背中合わせとなる。
「よそ見かい!?」
「おや。言われていますよ」
戦っていたマークの発言に追い討ちをかけるように銃の装填をしながらダークファルコが囁くもダークウルフの視線は別の方角へ注がれている。
「……!」
そこでようやく気付いた。
「リーダー……!?」
──正気を取り戻したのか!?
「、!」
稲妻と焔が渦巻く柱が青白い六角形の光の反射板によって弾かれたのは直後のことである。
「感心しませんね」
攻撃の始点には魔導書を構えた双子軍師の姿。
「今は目の前の戦いに集中してください」